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"あいつ等"と"あいつ"との再開

 マンティコアに教えられた通りの方向に有った洞窟(どうくつ)の入り口の前に立ち、思案(しあん)()れる俺達。

「これが魔王殿(でん)の入り口でしょうクワ?」

「そこに通じるダンジョンの入り口なのかもしれないな。しかし、こんな見張(みは)りすらもいないもんかな。」

「確クワに。一見するとただの自然の洞窟(どうくつ)の入り口ですな。人気(ひとけ)も無い…と言いますクワ、ケモノ(くさ)い様な気もしますな。」

ネビルブにそう言われて見ると、大きめで開け放しの入り口は大型のけものが出入りする様な(たたず)まいにも見える。こりゃ、ハズレだろうなとは思ったが、一応入って見る事にする。

 洞窟(どうくつ)は中も結構(けっこう)広く深い様だったが、ダンジョンという程複雑では無い様だ。曲がりくねってはいるがほぼ一本道、たまに有る横道もよく見れば奥まで見通せるレベルの奥行(おくゆ)きのものばかり。ダンジョンに付き物の魔物との遭遇(そうぐう)は、実は侵入して直ぐに気付いたのだが、俺達以外にも既に此処(ここ)に突入して来た者がいる様で、出()う魔物は最初から死骸(しがい)になっているものがほとんど。更に(くつ)()いていると思われる足跡(あしあと)や、()れた弓矢も見つけた。死骸(しがい)を見る限り、彼等が此処(ここ)を通ってから未ださほど時間は()っていない様だ。敵か? 味方か? まあ十中八九前者だろう。俺達は更に慎重(しんちょう)に歩を進める。

 突如(とつじょ)、この洞窟(どうくつ)最奥(さいおう)からかなり激しい喧騒(けんそう)が聞こえて来た。誰かが誰かと戦っている! 俺はそう確信した。しかもその片割れはたぶん複数人だ、話し声、ていうか人の叫び声が聞こえる。そして一方のその相手は多分この洞窟(どうくつ)の通路いっぱいサイズのでかい奴だ、この地響(じひび)きがそれを示している。洞窟(どうくつ)(くず)れてしまうんでは無いかと心配になって来る。

 心ならずも速まる足、やがてかなり大きめの空間に辿(たど)り着く。入り口には簡単な扉が取り付けられていた様だが、今は壊れて開け放たれている。そして中で繰り広げられている激しい戦闘。て言うか、部屋中火の手が上がって中々の地獄絵図(じごくえず)だ。そして、戦っている双方(そうほう)に俺は見覚えが有った。片やザキラムで俺が苦戦の末打ち負かしたグランドドラゴンの子供(と言っても怪獣サイズだ)、名前は…確か…、"ジュウベイ"とか言ったか。

 そしてそいつと戦っているのは…、俺がこの世界に転生して最初に出会った者達。俺がこの世界に呼び込まれ、気付いた時、俺、ことエボニアムは何者かに倒されたその瞬間だったのだが、その倒した張本人(ちょうほんにん)、それが彼等、"勇者パーティー"であったのだ。そしてその勇者パーティーが今目の前でドラゴンと戦っているのだ!

 戦況(せんきょう)はと見れば、相変わらず一人前のめりな勇者氏、"レダン"とか言ったかな?を中心にガシガシ()め立てる勇者パーティ。手数では断然(だんぜん)(まさ)っている彼等だが、グランドドラゴンの鋼鉄(こうてつ)の様な(うろこ)(おお)われた体の前にほとんどダメージを通すことが出来ておらず、ドラゴンのジュウベイの方はまだまだ余裕()だ。それに()して勇者パーティーはと言えばもうかなりギリギリな様に見える。…なんだかちょっとデジャブだ。

「ホイットニー、回復を(たの)む! 」

「すまんレダン。わしの自前の魔力による回復魔法だけでは、とても追いつかん。」

駄目(だめ)だ、撤退(てったい)しよう。このままじゃ死人が出る! 」

長身の男が叫ぶ。あいつは確か前に俺に矢を()ってきた奴だな。

「グルルラルルル…」

ジュウベイがうなる。あれはドラゴン語だ、"絶対逃がさん"とか言っている。得意のマグマのブレスを()き散らかし、更に部屋は灼熱地獄(しゃくねつじごく)と化して行く。

「逃げるにしても(すき)を作る必要が有りそうだ。一度全力で行くぞ!」

そう叫ぶと勇者は何か技の準備に入る。ジュウベイからの怪獣並みの肉弾(にくだん)攻撃を必死に受け止めながらだが、当然受けきれず、ダメージが蓄積(ちくせき)していく勇者。

 魔法使いが攻撃魔法で援護(えんご)しようとするが、やはりドラゴンには魔法は期待した効果を上げない。

 武闘家(ぶとうか)(?)が牽制(けんせい)を試みてこれに(いど)み掛かるが、ドラゴン相手にサシで肉弾(にくだん)戦は分が悪いどころの話では無い、一発(もら)えばそれで終わりのチキンレース。おまけに武闘家は動きは素早いが随分(ずいぶん)と軽装だ。そして心配は的中し、尻尾(しっぽ)の一撃をまともに(もら)う武闘家! 小柄(こがら)な彼は自分が()っ飛ぶ事で衝撃(しょうげき)をいなそうとした様だが、この勢いで岩肌の壁面(へきめん)激突(げきとつ)したらただでは済まない…ていうかこっちに飛んでくるぞ! 俺は反射的に少し飛んでこれを空中でキャッチ、そして壁面への受け身を肩代わりする。

「ありがと……、ひっ!」

チラリと俺の方を振り向いて固まる武闘家、まあそりゃそうか。てか声で気付いたが、こいつ女の子だったのか。

 彼女の奮闘(ふんとう)甲斐(かい)有って勇者の技の準備は整った様だ。放たれる剣撃(けんげき)とは思えぬ一撃、空間自体を切り()く様な、強烈(きょうれつ)剣筋(けんすじ)。ありゃ俺でもかわせなそうだ。さすがの鉱物(こうぶつ)並みの(かた)さを持つ(うろこ)もこの攻撃で何十枚と弾け飛び、中の肉が切り()かれる。思わぬ深傷(ふかで)を受けて(ひる)むジュウベイ。

「今だ、撤退(てったい)するぞ!」

此処(ここ)であと一息とか妙な欲をかかずに即座に撤退を決断した勇者は実に賢明だと思う。勇者は長身の射手(いしゅ)や魔術師に声を掛け、顔色の悪い僧侶(そうりょ)の手を引き、最後に武闘家の元へ()け寄ろうとして、俺と目が合う。

「なっ…」

足が止まる4人のパーティーメンバー、驚愕(きょうがく)と絶望が入り混じった表情。

 そしてこの一瞬のロスが大きかった。ダメージを受けた衝撃(しょうげき)から立ち直ったジュウベイは完全にブチ切れモードでこちらを(にら)みつけている。そして突然頭に生えたちょっと短めの角がぼーっと光を放ち出す。ちょ…馬鹿! こんな(ところ)でそれをやったら…。ジュウベイが何をしようとしているのか俺は見た事が有るので分かったのだ。そしてそれは洞窟(どうくつ)内と言うこの環境(かんきょう)下では最悪の選択であると言える。

 (あん)(じょう)、突然巻き起こる大地震! 立っていることもできずコロンコロンと転がる勇者パーティーの面々。もちろんそれだけで済む(はず)はなく、洞窟(どうくつ)がガラガラと崩落(ほうらく)を始める。そりゃこんなところで大地震なんか起こしたらそうなるわな。

 俺は(あわ)てて魔法障壁(しょうへき)ってやつを作り、俺の周りに展開する、折良(おりよ)く周りに集まっていた勇者パーティー全員が中に収まる様に。この魔法は以前()る者が使っているのを見た事が有ったのだが、自分で使うのは初めてだ。翼を使っての簡易(かんい)障壁(しょうへき)と違って痛くないのはいいんだが、こいつは正直疲れる。障壁(しょうへき)の周りはガラガラと崩落(ほうらく)が続いており、しまったやっちゃったという顔をしていたジュウベイの姿も今はもう見えない。

「どういうつもりだ。魔神エボニアム! 」

苦々(にがにが)()に勇者が俺に()め寄る。

「待て待て、今俺に対して余計な事をして魔法障壁(しょうへき)消滅(しょうめつ)したら、ここにいる全員生き埋めだからな!」

俺がそう(くぎ)を刺すと。更に(にが)い顔になって俺に(つか)み掛かろうとした手を引っ込める勇者。

「何が目的だ、なぜ私達を助ける様な事をする? ()が宿敵、魔神エボニアムよ! 」

「目の前でほっといたら死んでしまうも者が()たから、つい助けちゃったんだ! 」

ついつい正直なところを間抜け顔で答えてしまう俺。魔法がしんどくて、いい返しが思い付かなかったのだ。

「あの、ボニー様、この連中はお知り合いですクワ? 」

「…彼らは勇者パーティー。まあ知り合いと言うか、因縁(いんねん)の相手ってとこだな。」

「クワ⁈ 」

さすがに今は軽口も出ないネビルブ。

 そんな話をしている間に何とかこの魔法にも()れ、障壁(しょうへき)を安定させられるようになって来た俺、出てきた余裕の中でまじまじと勇者達を観察する。

 元気そうにしている勇者レダンだが、体中傷だらけでかなり痛々しい。恐らくもう立っているのもやっとの(はず)だ。その(そば)にいる僧侶(そうりょ)の、確かホイットニー?は怪我(けが)こそしていないが、顔面蒼白(そうはく)。彼から魔力を全く感じないので、多分魔力切れなのだろう。それはひょろっとした黒衣の魔術師の男も大差無い様だ。長身のサブ戦士は怪我(けが)こそ少な目だが、消耗(しょうもう)は激しそうだ。まあ、全体に贔屓目(ひいきめ)に言ってボロボロだ。

「あの、離して…。」

「あ、すまん、忘れてた。」

俺は女武闘家を(かか)えたままである事に気付いた。それでふと客観的に見ると、俺がこの女性を人質にして勇者達を牽制(けんせい)している状況にさえ見える。こりゃまた体裁(ていさい)の悪い…。とは言え俺が手を離すと彼女が崩折(くずお)れてしまいそうな状態だったので。長身の男に目で合図して、彼女の身を引き取らせる。

「お前ら、もう回復魔法も回復薬も打ち止めなのか?」

一向に治療(ちりょう)されない怪我(けが)人達の様子を見かねて俺が(たず)ねる。

「今、神の力を借りての回復がほぼ出来ない。アイテムとわしの基本魔法のみなので、正直追いつかないのだ。」

僧侶(そうりょ)のホイットニーが言う。神の力を借りられない? どういう事だろう。

「何か、ばち当たりな事でもしたのか?」

「何を馬鹿な! 神の声が弱くなったのは前回そなたと戦ってからだ。あれ以来()が神、アイボリオ様の声を聞けなくなってしまったのだ。そなたが何か関わっているのでは無いのか?」

「いやいやいや、神様を隠したりとかさすがに無理でしょ。ん、アイボリオ様? …どこかで聞いた様な…。」

「とぼけるでない! そなたとアイボリオ様の争いは何百年、何千年も前から続いているものの(はず)だ! 言うに事欠(ことか)いて名前すら知らない等と言うか!」

僧侶(そうりょ)氏、体調悪そうなのに声を荒げてらっしゃる。うーん、そんな事俺に言われてもなぁ…。でもひとつ思い出した。確かこの体の元の宿主(やどぬし)である"真の"エボニアムが俺に(身体を返せ)と迫って来た時、(アイボリオの仕業(しわざ)か)とか毒付(どくづ)いていた様な…、ん、アイボリオ? 愛掘神社? おやぁ?

 と、突然魔法障壁(しょうへき)が強い衝撃と共に何かに押し上げられる様な感覚。そして空が開け、気付けば俺達は魔法障壁(しょうへき)ごと地上に出されていた。グランドドラゴンのジュウベイが土系魔法で掘り出した様だ。(すで)に先に地上に出ていたジュウベイが、ドシドシとこちらへ迫って来る。そして怒りに満ちた目でこちらを(のぞ)き込んだタイミングで俺は障壁(しょうへき)解除(かいじょ)恐慌(きょうこう)をきたす勇者御一行を尻目に声を掛ける。

『よ、ジュウベイ! 』

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