第4話「眠れる遺都と、再誕の胎動」
古代の地、《エストリア遺都》。
王国成立以前に存在したとされる影織りの民の都市。今では砂に埋もれ、地図からも消されたその場所に、カインとノアは辿り着いた。
――その地下深く、石棺に刻まれた影の印章が、再び脈動を始めていた。
かつてこの地で、王権と魔法はひとつだった。
だが大陸統一の戦いの中で、影織りの民は裏切られ、滅ぼされた。
それでも彼らの一部は、知識と魔法を封じ、「王たる者にふさわしき者」が現れる日を待ち続けていた。
「ここが……影織りの始まり……」
ノアが呟くと、空気が震えた。
封印された記憶が彼の中で解き放たれていく。
彼の中にいるのは、最後の“記録の継承者”、
〈記憶の巫子〉と呼ばれた少女・エルシアの記憶だった。
「あなたが、未来を選ぶのなら……私のすべてを託します」
彼の内側で、優しく、しかしどこか哀しげな声が響いた。
◆
遺都の最奥――白金の玉座が眠る《継承の間》。
そこには魔法と血で編まれた“審判の儀式場”が残されていた。
玉座に触れた瞬間、空間が反転し、カインとノアは幻影の中へと呑まれる。
そこに現れたのは、かつての王たちの影。
「継承者よ。我らを超えてみせよ」
“影の審問”が始まった。
カインは父・リュカの幻影と対峙する。
「お前が守ると誓ったものは、民か?正統か?それとも――自分自身か」
剣と剣、言葉と記憶が交錯する中、カインは叫ぶ。
「俺は……影でも血でもない! この国の未来を――誰かが選べるようにするために立つんだ!」
その言葉が、幻影を貫く。
玉座の封印が解け、継承の印がカインとノアの体に刻まれる。
だが――。
その瞬間、遺都全体が揺れた。
巨大な魔法障壁が破られ、教会と貴族軍による襲撃が始まったのだ。
先頭に立つのは、かつて王国の盾と呼ばれた男、レオニス=グランゼル。
そして影の聖騎士として復活した、死んだはずの男――カインの兄、アルヴァ・エルヴェルト。
「久しいな、弟よ。父を殺した罪……ここで償え」
「兄さん……っ!」
剣が交錯する。かつての兄弟が、今や敵同士として。
一方で、ノアの中に残る〈記憶の巫子〉の意識が、エルシアの最後の願いを告げる。
「私たちは、滅ぼされるために力を与えたのではない。
あなたが未来を生きるために、すべての影を照らすために――」
ノアは立ち上がり、遺都の魔法炉の中核に手をかざす。
その光が放たれ、世界の空に巨大な紋章が浮かび上がった。
それは、“影の継承”の始まりを告げるシンボル――。
世界が、新たな夜明けを迎える準備を始める。
しかしその光に気づいた者たちは、すぐに動き出した。
禁忌の魔術師、《影食らいの会》の残党、そして、死より帰還した“影の王女”――
継承は始まったばかり。
そして、再誕の胎動は、まだ序章にすぎなかった。