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『影織りの王冠』(かげおりのおうかん)  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
◎第Ⅱ部 -断罪の輪廻-〜終焉の系譜〜
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第2章「新王の重荷」


王冠は、思った以上に重かった。

リュカ・アレスティアは、王の証である黒金の王冠を机の上にそっと置いた。

それはただの装飾ではない。数百年に渡って王たちが背負ってきた、権力と責任、そして血の記憶が染み込んだ代物だった。


「陛下。ヴァリオス枢機卿から、今朝の使者です」


報告とともに、近衛騎士の一人が封印された文書を差し出す。

リュカはそれを手に取り、重々しい印章を剥がした。

中には、教会の文言にしては珍しく、感情を滲ませた一文があった。


『王自らが影織りの力を認め、保護するなど、異端としか言いようがありません。

王国が神の道から外れれば、我々はその正義を取り戻すまで。』


「正義、か……」


リュカは低く呟いた。

教会の正義とは、常に“自らの価値観による浄化”に過ぎない。

影織りという未知の存在を、彼らは恐れ、排除しようとしている。


「彼らが恐れているのは、影そのものではない。影が『希望』に変わることだ」


宰相のギルダンがそっと言葉を重ねる。


「その通りです。ですが、王都内部にも影織りに懐疑的な貴族は多い。慎重な策が求められますぞ」


「……ならば逆に問おう。慎重さの先に、何がある?」


リュカは振り返り、真っすぐギルダンを見据えた。


「改革には痛みが伴う。だが、恐れて後退する王には、誰もついてこない」


その瞳は燃えていた。だがその奥に、疲労と孤独が確かに滲んでいた。


——


その頃、貴族議会では異様な緊張が走っていた。

影織りの登録制度をめぐって、激しい対立が起きていたのだ。


「王は、影織りを公務に登用するつもりか!? 貴族の安全を脅かすつもりか!?」


「いや、それ以前に。影の力など使わずとも、我らの剣と知恵で国を守れる!」


会議は紛糾していた。

その隅に、一人の若者が静かに座っていた。

リュカの幼馴染であり、現在は王政顧問の立場にあるレンフォル・アルセイド。


彼は会議を眺めながら、心の奥にある違和感を抱いていた。


(リュカ……お前の信じる道は、正しいのか? それとも……)


彼の視線が、会議の最奥——かつて王妃が座っていた椅子に向く。

そこには誰も座っていない。

けれどその空席は、あまりにも多くを語っていた。


——


夜、王宮の庭園。

リュカは一人、影に向き合っていた。

自身の足元に揺れる黒い影は、形を変え、まるで何かを問いかけてくるようだった。


「俺は……間違っているのか?」


沈黙が続いた。


だがその時、背後から柔らかな足音が近づいた。

振り向くと、そこにいたのは、王宮付きの医官であり、かつての影織りの研究者——リアナ・エストレアだった。


「……王様でも、弱音は吐くのね」


「……こんな時間に、何をしている」


「あなたの背中が、悲鳴を上げてるの。放っておけなかっただけ」


彼女はそっと、リュカの背に手を当てた。

優しい力。あたたかさ。

それは彼の中で冷えていた“人間”としての感情を、ほんの少しだけ溶かした。


「信じなさい、リュカ。たとえすぐには理解されなくても。

影を『希望』に変えられるのは……その手で、光を知っているあなただけよ」


リュカは小さく笑った。


「ありがとう、リアナ。……俺は、やはり進むしかないらしい」


影を背にしたまま、王は再び立ち上がる。

その足は揺れても、決して止まらない。


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