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『影織りの王冠』(かげおりのおうかん)  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
◎第Ⅱ部 -断罪の輪廻-〜終焉の系譜〜
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第1章「影の継承者」


夜明け前の森は、すでに眠りから目覚めていた。

梢を揺らす風が、影のように滑り、霧の帳を薄く裂いていく。

その中で、少女の剣が銀の弧を描いた。


「——そこまでよ」


鋭く放たれた声と共に、敵の影が消え去る。

地面に沈むようにして倒れた黒装束の男の手から、鋭い小刀が転がり落ちた。

影織り——その力を用いる暗殺者。だが彼女にとっては、もはや脅威でもなかった。


少女の名はエリス・ノーヴァ。

灰銀の髪と無機質な瞳を持つ剣士。

その背には一振りの長剣、そして足元には微かに揺れる漆黒の影。


「また一人……私の命を狙う理由を、誰も語らない」


彼女は囁くように呟いた。

その言葉は誰にも届かない。敵はすでに沈黙し、森はまた静寂に包まれていた。


——


アレスティア王国・王都フレイド。

第一部の終幕から一年、王位を継いだリュカ・アレスティアは、王城の執務室にいた。


「……この報告書の通り、辺境の村で“影の異能”を持つ少年が処刑されたと?」


重く響いた声に、傍らの老宰相がうなずく。


「はい。教会の審問官が“魔導異端”と判断し……王命に反して勝手に処刑を強行しました」


リュカの眉がわずかに動く。


「……何度も伝えている。影織りの力は異端ではない。私自身が、その証だと」


「それでも、教会にとっては、陛下すらも……“例外”ではないのです」


その言葉に、王の拳が静かに机に沈む。

影織りの力は未だ人々に受け入れられていない。

だが、リュカにとってそれは自らを支え、国を変える唯一の希望だった。


執務室の窓辺に立ち、朝日が昇る街を見下ろしながら、彼は決意する。


「私はこの手で、影を正義に変える。たとえ、世界を敵に回しても」


——


その頃、王都から遠く離れた古代遺跡・ニエヴァの洞窟では、影のように滑る男が歩いていた。


「フ……まだ目覚めぬか。王冠の影よ」


男の名はカイン。

かつてリュカと対立し、滅びたはずの〈黒影の盟〉の首領。

だが彼は生きていた。そして今、さらなる力を得るために動いていた。


洞窟の奥にある封印の門。

そこには“始祖の影織り”の遺産と呼ばれる禁忌の魔導具が眠るという。


「影は、ただ従うものではない。支配する者の手にあってこそ、力となる」


カインの影が、封印を包み込む。

その瞳は、王冠を越えた力を見据えていた。


——


そして夜。

エリス・ノーヴァは焚き火のそばに座り、静かに剣を磨いていた。


「王都へ行く……リュカ・アレスティア」


その名を口にした時、彼女の影が一瞬震えた。

かつての因縁。かつての誓い。

そのすべてを確かめるため、彼女は王の前に現れるつもりだった。


影の継承者たちが動き出す。

それは、新たな時代の胎動。

そして、王国に新たな混乱を呼び寄せる序章でもあった。


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