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私は“手で触れたものを黄金にする男”を思い切りブン殴った

 アポを取りつけてから半年、ついにこの日がやってきた。

 私はフリーライターで、日夜記事にできるネタを追い続けている。

 今回取材するのは、なんと“手で触れたものを黄金にする男”だ。


 まるでギリシャ神話に登場するミダス王だ。

 簡単に説明すると、ミダス王は「触ったものが黄金に変わる能力」を手に入れ、最初こそ喜んでいたが水や食べ物まで黄金に変わることを知り、「こんな能力手に入れるんじゃなかった」と絶望する。

 その後、どうにかその能力から解放され……まあ、これ以上は今回の話に必要ないので割愛させてもらう。

 ちなみに『王様の耳はロバの耳』の王様も彼である。


 私は車を運転しながら、ぼそりとつぶやいた。


「現代のミダス王……か」



***



 その男が住むとされる邸宅は、小さくはないが、意外に質素だった。

 私は屋根も壁も金でできているような黄金の屋敷に住んでいるのを想像したのだが、ごく普通の邸宅という感じである。

 しかし、セキュリティは極めて厳重だ。

 幾人もの屈強なボディガードが詰めており、私も屋敷に入るまでには入念なボディチェックを受けた。

 スマホはもちろん、武器になりかねないペンの類も預けることになり、帰り際に返してもらうことになる。

 まあ、取材したことは記事にしていいと言われているし、記憶力にも自信はある。

 特に問題はないだろう。


 応接室に案内される。

 立派だが、豪奢というほどでもない部屋だった。

 そして、男と対面する。


「ようこそ」


「初めまして」


 これまた至って普通の男であった。

 年齢はおそらく20代か30代、ワイシャツに黒のスラックス姿で、中肉中背、人のよさそうな顔立ちをしている。

 これが“現代のミダス王”だとは。ちょっと拍子抜けしてしまう。


 お互いに軽く自己紹介した後、ソファに座り、さっそく取材に入る。

 まず聞きたいのは――


「あなたの“触ったものを黄金にする力”……本物ですか?」


 男はうっすらと笑う。


「ええ、もちろんです」


「しかし、そんな力を持っていたらまともに生活できないと思いますが……」


 こう尋ねると、男は右手を差し出した。白い手袋をつけている。


「私の能力を発動できるのは右手だけです。そして、この手袋は私の力を受け付けません」


 なるほど、手袋をつけていれば触ったものが黄金になることはないからミダス王のようにはならないわけか。

 しかし、ちょっと都合よすぎる気もする。


「それを証明できますか?」


「よろしいですよ」


 私は先ほど没収されなかった消しゴムを差し出した。


「じゃあ、これを……」


 すると、男は右手につけていた手袋を外した。

 あらわになった右手に特に変わったところはない。

 だが、男が消しゴムに触ると――


「……!」


 瞬く間に消しゴムがその形を保ったまま黄金に変わった。

 私が驚いていると、男は再び手袋をつけながら微笑む。


「差し上げます。どうぞ」


「どうぞ……っていいんですか?」


「まあ、これぐらいなら問題はないでしょう。わざわざここまで取材に来て下さった手間賃ということで取っておいて下さい。売ってもいい金になるでしょうね」


「売るつもりはないですが……頂きますよ」


 私は先ほどまで消しゴムだった黄金を胸ポケットに入れた。

 その感触はずしりと重い。


「あなたの力が本物だということはよく分かりました。では質問させて下さい」


 まず聞いたのは、どうやってこの能力を身につけたのか――


「詳しい場所は申し上げられませんが、私はある目的のために山中で砂金採りをしていました」


 砂金採りか。パンニング皿という特殊な皿を使って、川の砂を採取して、中に砂金があるか調べる。地道な作業というイメージがある。


「砂金採りに夢中になるうち、私は山の奥深くまで入り込んでいました。そこには小さな泉があって、近づくと中から美しい女性が出てきたんです」


「まるで、童話の『金の斧、銀の斧』ですね」


「おっしゃる通り。私もあの童話を連想しました。その女性を分かりやすく“女神”としましょう。女神は言いました。ここまで来られるとは、お前にはよほど黄金への執着心があるようだ、と」


 執着心がないと、その泉そのものにたどり着けないのかもしれない。


「そして、女神は言いました。もしも望むなら、お前の右手に“触れたものを黄金にする力”を授けてやろうとね」


「ずいぶん唐突ですね」


「ええ。ですが私は即答しましたよ。お願いします、と。すると、女神はこの力を授けてくれたんです。手袋も、その時渡されたものです」


 力は右手だけ。しかも力を封じる手袋つき。ずいぶんサービスがいい女神だ。

 よほど男の執着心がすごかったので、気に入ったのかもしれないな。

 もし私が同じ立場だったら、即答はできなかっただろうし、そうなったらミダス王のように融通の利かない力の与えられ方をしていたかもしれない。

 まあ、とにかくこれで男の力が本物だということと、力を手に入れた経緯は分かった。

 だが、解せないこともある。


「あなたのその力があれば、失礼ながらもっといい暮らしをすることもできそうですが」


「そう思う方は多いでしょうね。しかしもし、私が金儲けのためにやたらめったら色んな物を黄金にしたらどうなると思います?」


 私は少し考える。


「金相場はメチャクチャになるでしょうね。それに伴い、世界中の経済が混乱してしまうでしょう」


「その通り。私は別に世界の混乱などは望んでいない。かといってせっかくの力を全く使わずにいられるほど無欲でもない。そこで私はこの力を管理してもらうことにしたのですよ。いわゆる国家機関に」


「なるほど……」


 男にたどり着くまでの厳重な警備もこれで説明がついた。

 男は自ら、国家の管理下に置かれることを選んだのだ。

 もし、力を無軌道に使ってなんでもかんでも黄金にしたら、悪人に狙われるのはもちろん、下手すれば国家にさえ狙われる。

 そうなれば、彼は今頃墓の下にいるか、体の自由を奪われ“黄金製造装置”にでもされていただろう。


 黄金は装飾品としてはもちろん、その性質から工業・電子・医療あらゆる分野で活用される。

 世界経済を混乱させることのないよう、能力の使用は国家に厳しく管理・制限してもらい、必要なところに必要なだけ黄金を届ける。

 その代わり、男は絶対の安全と平穏を得られる。

 悪くない取引といえる。

 何でも黄金にする力を持つ男は、その力とは裏腹に実に堅実な人生を送っていた。


「しかし、今聞いたことを記事にしてもよろしいのですか? 国家機密ではないのですか?」


「かまいませんよ。あなたが私の存在を知ったように、今の時代私の存在を完全に秘匿するなど不可能です。それに、やっていることも実に慎ましやかなものだ。世の中私のような人間もいると、むしろPRしたかったぐらいです」


 半ば都市伝説のような存在でいるより、「黄金をいくらでも生み出せる男は実に現実的な生き方をしている」と喧伝してもらった方がいいわけか。

 私の記事を読んだ者はきっと「よーし、この男の力を手に入れるぞ!」なんて思うより、「思ったより夢がないな」なんて思うに違いない。


「……分かりました。どうもありがとうございます」


 だいたい聞きたいことは聞けた。

 だが、最後にどうしても聞きたいことがあった。


「あなたはなぜ黄金を欲したのですか? 黄金を作る力を手に入れたのですか?」


 根源的な質問だった。

 事の発端は、男の砂金採りである。男にはある程度まとまった量の黄金を手に入れたい理由があった。

 その理由を聞かなければ、今日来た意味はないといっても過言ではない。

 男はニヤリと笑う。


「黄金を使ってどうしてもやりたかったことがありましてね」


「やりたかったこと……」


 私は緊張で唾を飲み込む。

 現代のミダス王が、黄金で何をしたかったのか、実に興味深い。


「特別にあなたにはお見せしましょう。もう一度力を使うことになりますが、国家も許してくれるでしょう」


 男は応接室を出ると、両手に何かを持って戻ってきた。

 持っているのは二つのピンポン玉だった。

 一体何に使うのだろう。私の緊張と興奮が極限に達する。


「では“私がやりたかったこと”をお見せします」


 男は手袋を外し、右手で二つのピンポン玉を黄金に変えた。

 そして、その二つの玉を満面の笑みで、自分のスラックスの股間部分にあてがった。


「これがホントのキンタマ!!! ……なんちゃって!」


 次の瞬間、私は男を思い切りブン殴っていた。

 ついカッとなってやった。後悔はしていない。






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
( ̄▽ ̄;)ピンポン球2つ…と、聞いた時点で嫌な予感はしたんですけどね… ( ̄▽ ̄;)マジでやりやがったよ、このアホ。 ( ̄▽ ̄;)小学生かっ?! (  ̄▽ ̄)とりあえず笑かしてもらいました。
思わず笑ってしまったあと、おもむろに これ、国家公務員の監視役の人が報告書を書いて公文書として保管してあるんだよなぁ……。などと思うなどしました。 200年後くらいに公開されてそう。
>> よほど男の執着心がすごかったので、気に入ったのかもしれないな。 強かったのは「黄金」への執着心ではなく、「黄金玉」への執着心だったのか… まあこういう奴を「天才」と人は呼ぶんでしょうね…(笑…
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