49 ずっと名乗るつもりはなかったのに
近所にあるお寺にお稲荷様がいて。
そこのお稲荷様の狛狐に、10年くらい前から赤い前掛けを奉納している。
それまでは全裸だった狛狐が、コロンの作った前掛けを誇らしげに「ふんす」と鼻を鳴らして付けている姿が可愛くて。
外にいる狛狐に掛けられた前掛けはすぐに汚れ、色落ちして、ばっちくなる。
そんなばっちいのを「ふんす」と付けている狛狐が可哀想なので「わー…しばらく来ないうちに汚れちゃったね、ごめんね、また作ってくるからね」と、つい狛狐に言ってしまう。
コロンが作る赤い前掛けは、ただの赤いのだけじゃなく、赤ベースに花柄や金色が使われた何種類のパーツを合わせた歌舞伎の衣装みたいなゴージャスな前掛け。
作る工程が多くて、はっきり言って面倒である。
しかし約束した手前もあるし、一度始めたらやめるわけにもいかず「どうせならド派手な物を!」と、お稲荷様のために年に数枚、頑張って作っている。
で、奉納はお賽銭箱の上にそっと置いてくるだけ。
いつもひっそりとしていて人の気配はないが、きちんと管理されている大きなお寺なので、数時間後には誰かが見つけてくれる。
そうやって10年続けてきたのですが。
先日、お稲荷様の前にしゃがみ、手を合わせて「柿を食べてもお腹が痛くなりませんように。ギックリ腰になりませんように」と、しつこくお願いして「さてと」と立ち上がり振り向いたら。
恰幅の良い男性が腕を組み、仁王立ちしていた。
コロンの次に待ってる人初めて見た…
と思い、その場を離れようとしたら、男性が「どうしました?」と、威圧的に言ってきた。
は?お稲荷様に手を合わせてる人に「どうしました?」って?
「え?参拝ですけど…?」
「ああ、そうですか」
と、なんかムカつく。
でも、お坊さんなら奉納したやつ渡そうかなと思って
「あ、こちらのお坊さんですか?」と聞いた。
「いいえ?ここに出入りしている業者です」
業者かよ!と思いつつ
「奉納した物をそこに…」と言うと
「じゃあお寺の人に言ったらいいですよ」
「あ、別にいいです」
と言ったらその人はその場から離れたけれど、なんかすごく不審者扱いされている。
凄く嫌だと思って、お寺の方に声がけをすることにした。
インターフォン越しに「あの…お稲荷さんに奉納したんですげど…ちょっと不審者っぽかったみたいで…あの、置いておきますので…」と言った。
なんて言っていいかわからなかったし。
すると「え?お稲荷さんに?あの、もしかしていつも前掛けを下さる方ですか?!ちょっとお待ちください!」
と、慌てて出てきてくれた。
前掛けって一言も言ってないのに。
「いつもありがとうございます!みんなで誰だろうねと話していたんですよ!」
「すみません、大した事でもないので、置いていくだけでいいかと思いまして…」
「いえいえ、ごんぎつねみたいだね。と、みんなで話していたんです。ありがとうございます!」
そう言われた。
ちょっと嬉しかったけど…
ん?
ごんぎつねって最後…
おわり




