最強への切符は鞘を走る
筆者の連載作品「最強への切符はこの手の中に」の過去編の外伝になります。
短編として書きましたが、苦手な方はご注意ください。
段々と冬の厳しい寒さが薄れ、日によっては暖かい日差しが感じられるようになった3月の中頃。
街を夕日が照らす中、由比ヶ浜中学の練習場に2人はいた。
格納庫の中を2人は慎重に進み、互いの隙を伺っている。
「見つけた!」
そう言って竹刀を構え、走り出していく少女の名前はリン。
黒い長髪を後方へと流しながら、軽やかに前進していた。
「バレたか……!」
少女から距離を取りつつ、ハンドガン型のペイントガンを構え、応戦する少年の名前はシュウ。
こちらも短髪だが、黒い髪をしている。
2人は鎌倉都市の由比ヶ浜中学に通う三年生であり、学年でツートップの成績を誇る天才だ。
なぜ彼らが格納庫で戦闘をしているのかといえば、彼らの通う学校自体が、戦闘訓練を目的としているからであった。
今から50年前、世界中にダンジョンが生まれ、モンスターが闊歩するようになった。
人々は大きく数を減らしながら、生き残った人々は防壁の中で暮らすようになった。
そんな防壁に囲まれた都市の一つが鎌倉都市である。
2人は都市の中の軍人、〝戦士〟になるべく日夜訓練し、切磋琢磨していた。
2人の実力は伯仲していた。
「逃げるな!」
リンがコンテナをよじ登り、シュウの頭上を目指して走っていく。
「距離を取れば、お前なんかに負けないからな!」
シュウは足音を消し、回り込んでいく。
「あれ!いない!!」
シュウはここだ!と勢いく切りつけた竹刀が空を切り、リンは慌てた。
「馬鹿め、こっちだよ!」
銃撃しつつシュウがコンテナの影から身を乗り出す。
リンのセーラー服には赤いペイントが飛び散った。
「もう!ずるい!
正面から勝負しろ!」
「近接に正面から戦うわけないだろうが」
シュウは首をすくめた。
「最近、負けてばっかだなぁ」
リンが残念そうに呟く。
中学に上がりたての頃、まだシュウとリンは正面から戦っていた。
その頃はリンが若干勝ち越していたのだ。
しかしシュウが狡猾な立ち回りを覚えるようになってからは、思うように勝てていない。
最近は3回に1回ほどしか勝てないのだ。
「モンスターの退治数だと敵わないしな。タイマンくらいは勝ち越させてくれよ」
同じ部隊で戦う度、リンとシュウは討伐数を競っていた。
リンがモンスターの群れに飛びかかり、蹴散らしていく関係でリンが勝ってばかりだ。
もっとも、シュウがリンの死角をカバーしているからではあったが。
「でも……」
リンは口をとがらせる。
中学でも評判の美人だったが、仕草にはまだ幼さが残っていた。
「今日はこの辺にして帰ろう」
2人は練習場を後にした。
次の日も2人は練習場にいた。
「今度こそ!」
高台にいるシュウに向けリンが駆け寄っていく。
格納庫の壁や天井を蹴り、立体的に動くリンに球を当てるのは至難の業だった。
シュウの握るハンドガンが乾いた音を立てる。
「弾切れか……!」
シュウが即座にリロードを行う。
しかしそれは大きな隙となった。
「ふふーん!焦ってるね!」
リンは回避を捨て、直線的に距離を詰める。
もう2人の距離は10mしかない。
1秒もあればリンの剣がシュウに届く距離だ。
「いまさら!遅いよ!」
リンは空中で竹刀を下段に構える。
あと0.5秒。
間合いに入った瞬間に切り入れる!
そんな気合いの入った構えであった。
その時、シュウの構えたハンドガンがペイント弾を打ち出した。
距離的に回避は不可能。
外れる訳もない。必中の距離だ。
しかしそれがリンの元へ届くことは無かった。
「よっし!」
リンが右上へと竹刀を振り上げ、返す刀でシュウを狙う。
ハンドガンで竹刀を止めることは出来ない。
リンガ勝利の確信で頬を緩める。
「なんで……!」
だが数瞬の後、その表情は驚愕に染っていた。
リンのセーラー服には今日もペイント弾が命中していたのだ。
あまりにも早い連射が、リンを襲っていたのだった。
「ファニング、て言うんだ。
近距離戦用の切り札」
シュウはハンドガンの引き金を引いたまま、もう片方の手で素早くコッキングを行っていた。
反動が大きく、片手で抑えるため正確な照準が難しい。
しかし近距離戦においてはデメリットを無視できる速射法だ。
「そんな……距離を詰めたのに……!」
リンは今回、ベストを尽くして戦った。
回避の体術。詰めの判断。極限で弾を弾いた剣捌き。
どれをとっても、いまリンにできる最上のものだった。
それだけに、この敗戦は大きく自信を傷つけた。
「……帰る」
リンは竹刀を垂らし、帰途に着いた。
「距離をつめれば……そう思ってたのに!」
リンはいつも2人で帰る道を、一人で歩いていた。
2人の家は隣同士で、幼稚園から続く縁だった。
その中で生まれた淡い恋心も、安心感も、いまのリンにとってはなんの慰めにもならなかった。
「私じゃあシュウと戦えない。足でまといになっちゃうな……」
シュウは高校に入ってからもトップに居続けるだろう。
そうなった時、自分は隣に立てるだろうか……
リンは自信を失っていた。
「リンめずらしいな。どうした!」
らしくないミスに先生から注意が入る。
翌朝、リン達は移動訓練として、銃を持ったまぬかるんだ道を走っていた。
リンはこの訓練でいつも1着だった。
しかしリンはぬかるみに足を取られ、銃を取り落としてしまった。
失格だ。
「リン……」
リンの不調に心当たりのあるシュウは、沈痛な表情を浮かべている。
だがリンの目にはシュウの表情は、格下に対する哀れみのように映った。
「そんな目でみないでよっ!」
リンは泣くまいと歯を食いしばり、銃を整備場へと戻した。
リンは午後からは学校ではなく、砦の防衛任務に就いた。
中学生での招集は珍しい。
由比ヶ浜中学ではリンとシュウだけが、期待を込めて招集されていた。
「由比ヶ浜中学三年のリンです!本日は御指導よろしくお願いしますっ!」
その言葉に30代ほどの細身の男が前に出る。
「私はここの砦を任されているヨロギです。
ここはもう戦地ですから、油断せず取り組むようにして下さい」
「はいっ!」
元気よく返事をしたものの、リンはまだ昨日の敗戦と今日のミスを引きずっていた。
がんばらなくちゃ!
リンはそう気合をいれ、砦の防衛任務に着いた。
砦には10人ほどの戦士がいる。
切り通しを守る拠点であり、数はそこまで多くない。
また多くは後衛であり、切り通しを超えてくるモンスターに火力を集中させることで防衛を行っていた。
「モンスターがきてるぞ!かなり多い!」
見張りの戦士が声を上げる。
その言葉を聞き、砦の戦士達は武器を取った。
「みなさんいきますよ!」
「おう!」
「はいっ!」
ヨロギの指示で切り通しへと向かう。
しかしすでに虎型のモンスター達が切り通しを超えていた。
「早いものがいるようです!前衛で虎を倒してください。
後衛は切り通しに火力を集中してください!」
ヨロギが指示を出し、リンたち前衛の3人が虎型のモンスターへと向かう。
虎型は全部で5体。
リンも虎型1体を相手取った。
「くらえっ!」
リンの日本刀が虎型に迫る。
虎型はそれを躱して距離を取った。
ヨロギがそこへアサルトライフルでの支援を行うが、虎型の皮膚を貫通させることは出来ない。
「グルァァァ!」
虎型が雄叫びを上げ、リンへと飛びかかる。
リンは思わず怖気付き腰が引けた。
そして足元の岩でバランスを崩し、決定的な隙を作ってしまった。
「大丈夫か!」
リンの隣から他の戦士が飛び込んでくる。
しかしすで2体の虎を相手取っており、
3体を支えることはできなかった。
「ぐわぁ!」
その戦士は背後から引っかかれて弾き飛ばされた。
リンはお陰で体勢を立て直せたが、虎型3体に囲まれてしまう。
「こんなの……どうすれば……!」
「僕の力を使いなよ」
リンの脳裏に中性的な声が響く。
思わずリンは声に出して尋ねた。
「あなたは……?」
「僕は君さ。時間がない。その刀で敵を倒すんだ!」
リンの手に刀が握られ、黒い鞘が滑り落ちた。
それは紅い、燃えるような色の刃を持つ刀だった。
「すごい……!体が軽くなった!」
「その武器はアストラル・ウェポンていうんだ。
さあ!その力で虎達を屠りなよ」
リンが虎達の方に意識を戻すと、虎達は空中をゆっくりと動いている。
虎達だけじゃない。
身を呈して庇おうとするヨロギも、なんとか逃げ道を作ろうとするもう1人の前衛の戦士も。
切り通しにむけて後衛が放つ矢や弾丸も全てがスローモーションだった。
「よし……!やってやるっ!」
リンは地面を踏みしめ、虎へと突進する。
そのスピードはスローモーションの世界であっても、普段以上の速さだった。
「こんどこそくらえっ!」
紅い刃は、虎をまるでバターのように両断した。
リンは勢いを殺すことなく2体目、3体目の虎へと向かう。
「こんなにあっさり切れるなんて……!」
「僕らの力は凄い。目覚め立てでこれなんだ。
いつか、最強の剣士にだってなれるよ」
脳裏の声と会話している間に、虎型は5体とも倒すことが出来た。
「この力があれば、シュウといられるっ!」
「そうだね。むしろシュウがぼくらについてこられるかが問題だよ」
脳裏の声は自信満々にそう言い放った。
そして周囲の時間が流れ出す。
矢も弾も、土埃も人々も。
すべてがいつも通りに動き始めた。
「リンさん……!目覚めたのですか!?」
ヨロギはリンの握る紅い日本刀に釘付けだった。
「目覚めた……?」
倒れていた2人の前衛もリンの方を見ている。
後ろから背中を引っ掻かれた戦士も、痛みを忘れているようだった。
「おそらく、その刀はアストラル・ウェポンです。
中学生で使い手とは。
私は聞いたことがありません。これはすごい事ですよ!」
その後応援としてきた戦士長、ヘイゾウから、リンがアストラル・ウェポンの使い手となった事についての箝口令が敷かれた。
そのまま訓練は終了となり、リンは家路についた。
夜、リンは白い霧の中に立っていた。
「ここは……?」
「ここは君の夢の中だよ」
昼間脳裏に響いた中性的な声だ。
目を凝らすと、霧の中から少年が現れる。
髪は黄金色の短髪で、見慣れない白を基調とした服を身につけている。
顔は彫りが深く、日本人離れした美しさだった。
「僕は君であり、君でない。
アストラルと言われる存在だ」
「昼間はありがとうっ!あなたのおかげで、無事だったわ!」
リンにとっては命の恩人。
そう思い声を掛けるが、少年は喜ばずに返答する。
「僕は君でもある。だから礼は必要ないよ。
むしろ僕から礼を言いたいくらいだ。
星に近づき、力を手にしてくれてありがとうとね」
「星に近づき……?」
象徴的な言葉に、リンは疑問符を浮かべる。
「アストラル・ウェポンの力は星の力なんだ。
君は鍛錬と闘志で、その力を宿すに至った。
誇るべきさ」
アストラル・ウェポンの力はただ強い武器というだけでは無い。
意識の高速化や、身体能力の圧倒的な向上をもたらすものだ。
その力を宿すには、素質と努力と機会、全てに恵まれなくてはならなかった。
「もう夜が明ける。
力は極力隠すといい。
もっとも隠し切れるものではないだろうけどね」
少年のその言葉を最後に、リンの意識は覚醒した。
「リン!昨日大変だったってきいたぞ!大丈夫か!?」
朝学校へ行くと、シュウが血相を変えて話しかけてきた。
アストラルの力については伝わっていなかったものの、襲撃により混乱が起きたことは伝わったようだ。
「俺のいた隊にも応援要請がきてたけど、隊長が許してくれなかったんだ……
無事でよかった……!」
シュウは珍しく動揺している。
スランプの原因を作ったことへの呵責もあるのだろう。
リンはその事に思い当たり、提案した。
「放課後、また格納庫でやり合おうっ!手加減なしで」
自分が大丈夫だといっても信用はえられないかもしれない。
しかし、今の力を見せれば、シュウもわかってくれるだろう。
「……わかった。無理はするなよ」
放課後、2人はいつもの格納庫にいた。
シュウの目には緊張が、リンの目には覚悟があった。
合図で戦いが始まる。
するとリンは一直線にシュウの方へと走り出した。
「リン……やっぱりまだ」
沈痛な表情を浮かべ、シュウは躊躇いつつリンに照準を合わせる。
生じた迷いは、️『手加減なしで』というリンの朝の言葉によって打ち消された。
シュウは両手でハンドガンを抑えながら、引き金をひいた。
その時、リンの姿がぶれた。
影のように残像を残し、シュウが放つ弾丸を避けていく。
シュウがリロードを挟み、再び銃を構えた時、リンはもう目の前にいた。
「またこれか!」
シュウは引き金を引いたまま片手で銃を抑え、もう片方の手でコッキングを行う。
ほんの刹那の間に新たに装填された弾丸を全て打ち出した。
しかし今回は、リンのセーラー服がペイントに汚されることはなかった。
リンは高速で竹刀をふり、7発全ての弾丸を切り払ったのだ。
「嘘だろ……!」
竹刀がシュウの首筋に添えられる。
リンの圧勝だった。
「おい……!なんだよいまの!」
シュウが興奮して叫ぶ。
「言えない。でも、もう大丈夫になったのはわかったでしょう?」
シュウは押し黙った。
そしてさらに疑問を重ねる。
「今までずっと、手加減してたってことかよ!」
「それは違うのっ!」
「じゃあなんで……!」
箝口令が敷かれた以上、リンは答えを言うことができなかった。
その程度でシュウの自信が崩れるとは、露ほども思わなかったからでもある。
そして後ろめたさもあった。
リンからすれば、真っ当な努力で得た力では無い。
それを口に出すことに対する抵抗も、口を閉ざす方に助力した。
「わかったよ。
もう安心だ。帰ろうか」
シュウはぎこちない笑顔を浮かべ、リンとともに帰路に着いた。
砦での戦闘から1週間が過ぎた。
2人は由比ヶ浜中学の卒業式に参加していた。
「卒業生代表、リン!」
リンがアストラルの力に目覚めてから、本気で戦わずとも成績は向上した。
余力は余裕を生んだ。
リンはいままでとは別次元の強さを手に入れていた。
「はいっ!」
高校はシュウと共に鎌倉第1高校に通うこととなった。
若干スランプ気味のシュウはともかく、リンを超える生徒は高校にもいないだろう。
悔しさは時に人を強くする。
リンにとってのそれは、アストラル・ウェポンだったのだ。
最後までお読み頂き、ありがとうございます!
もしご興味がありましたら是非連載作品の方もお読み頂きたいです。
https://ncode.syosetu.com/n5347jd/
感想、評価もお待ちしております。




