四話
目の前にいるこの少年は、私と同様逃げるところだった様だ。
「そうだったのね。」
「それで、これからどうやって脱出する?」
どうやって……。このままだと追っ手に捕まってしまうが、ここで待っていてもフェルと会ってしまう。だとすると……。
私は部屋の奥にある窓を見た。カーテンがかかっている。私はそのカーテンを開く。幸いにもここは一階の様だ。そして、窓の外には川が流れている。
「……ここから脱出するのが手っ取り早いと、思うのだけれど。」
と、ニコリと笑う。きっとヒロインの特徴でもある妖精の様な聖女の様な笑みを浮かべていることだろう。
「……ありだな。だが、君は泳げるのかい?」
「……分からないわ。」
私は、前世では全くもって泳げなかった。水泳の授業をあらゆる手段を使って逃げてき女である。そう、全くもってヒロインの様な行いをしていないのである。
そうこうしているうちに足音が近づいてくる。
「でも、やるしかないわ。」
私達は、窓を開ける。意外と硬くて焦ったが、無事開けることができた。多分だが、この窓長いこと開けていなかったのだろう。埃もかぶっていた。
「じゃ、いくよ?」
「ええ。」
私は覚悟を決める。そして私達は飛び込んだ。
「ヒロインだから、死なないっしょーー‼︎」
と、私は叫びながら。
ざぼーんと音を立てる。私はとりやえず、昔学校で習ったことを必死に思い出し、体が浮くように浮くように必死で力を抜いた。だが、不思議なもので、力が抜けているはずなのにどんどん沈んでいく。このままだともう息が続かない。私、またここで死んじゃうのかしら?
その時、体を強く掴まれる。そして一気に引き上げられた。
「ぷはっ!ゲホゲホッ!」
「大丈夫か?」
「え、ええ……。」
そう言いながら這い上がる。無事オークション会場の外に出ることができた。まだあたりは暗く、何も見えない。ただ言えるのは、寝巻きの姿で来てしまったので、とても寒い。……待てよ?寝巻きの姿だとしたら、今濡れてるから、色々見えちゃいけないものが見えてるんじゃない⁉︎
「……顔から下は見ないでよ?」
最初はなんの話だ?と言う様に首を傾げていた少年は状況が見えたらしく、
「……暗くて何にも見えないから安心してくれ。」
と、手で顔を覆いながら話していた。
しばらく経つと、外の方でまた騒がしくなってきた。きっとこのオークションは終わりを迎えているのだろう。私達も、早くここから離れなくては。
「ここを離れましょう。」
「でも、どこに行くんだ?保護してもらった方がいいんじゃないか?」
確かにそうだけど!でも、フェルと会うのは私のヒロイン脱却計画が台無しになる。
「そうね、でも私はいかない。」
「なんて……。」
「理由も言えない。」
すると、この少年は黙る。でも、私の計画にこの人まで付き合わせるわけにもいかない。この少年はきちんと保護してもらうべきだ。
「貴方だけでも、保護してもらって?その方がいいと思う。」
すると、少年は少し黙り言った。
「いや。僕は君について行くよ。」
「……え?なんで?」
「僕も本当はあまり騎士に自分の正体がバレたくないからね。」
「それ、私に言ってもいいやつ?」
すると、ハハッと笑って少年は言った。
「不思議だね、君なら大丈夫だと思ってしまった。でも、そうだね、言わない様に気をつけないと。」
これ、ヒロイン補正ってやつでは?すごいな、ヒロイン。なんか分からないけどあっという間に信用を勝ち取っている。
「そ、そうだね、あんまり言わない方が良いと私も思うわ。」
そう言うと彼は頷いた。
「で、どこに行くんだい?」
「私の屋敷に戻ろうと思って……。貴方も一緒にいきましょう?」
外の騒がしさも少し静かになってきた。ここに待機してからそんなには経っていない。
「いいのかい?」
「ええ。ただ一つ問題があってね。」
「問題?」
そう、たった一つのある問題。その一つがとても重く重大な問題なのである。
「帰り道が分からないの。」
「……え?」
そう、帰り道が分からないのだ。すると、少年は驚いた顔をしたものの少し考え始めた。そして、再び口を開く。
「君の名前は?もしかしたら分かるかもしれない。」
この世界でいう最高神だろうかってくらい今この少年が光り輝いて見えた瞬間だった。これは、推しになるかもしれない。
「私の名前はエレナ・テイラー。……分かるかしら?」
「テイラー家……。なんとなくの場所なら分かるよ。」
「本当に⁉︎凄いわ!」
すると、少し照れくさそうに首に手を回して笑った。この仕草……、この小説の中の私の推し、キース・クラークにそっくりである。本当に推しになりそうだわ。
こうして。私達は屋敷へ向かった。水に濡れたせいで体は寒かった。急いで戻ると屋敷が騒がしかった。どうやら私が誘拐されたせいで、屋敷が騒がしくなったのだろう。
門のところまで行き、私はこの少年にあることを尋ねた。
「貴方名前は?」
すると、少し迷いながら彼は名乗った。
「キース・クラーク。」
その瞬間、私の思考が一気に停止したのだった。