二話
ヒロインになんてならないと決意した私は改めて状況を理解するところから始めた。
この世界は、四つの国で出来ている。その国はそれぞれ信仰している女神が違う。
私の住んでいる国は、花を司る女神を主に信仰しているイルリス王国というところである。別名花の国とも呼ばれているくらい各所に花々が綺麗に咲いている。私の家にも綺麗な花々が咲いている。
他にも風を司る女神を信仰しているヴァンテール王国、大地を司る女神を信仰しているエールデ王国、水を司る女神を信仰しているアクア王国がある。それらの女神を取りまとめているのが最高神だと言われている。
さて、この小説の舞台であるイルリス王国にあるガーベラ学園に私は十五歳で通うことになる。
ガーベラ学園とは、貴族や、騎士見習いが通う学園であり、共学クラスと女子クラス、そして将来有望な騎士を育てるためのクラスがある。エレナとフェルは共学クラスで出会う設定だったはずだ。
そこで私は今何歳かをリエに聞くことにした。
「リエ!」
そう呼ぶとリエはすぐさま心配そうな顔でこちらまで来た。朝私が変なことを言ったからだろう。
「どうかしれましたか?お嬢様。」
「私、今何歳かしら?」
「本当にどうかされたのですか?今は十三歳、一ヶ月後には十四歳になられますよ。」
そうか、私は今十三歳なのか。私はまだリエを下がらせた。リエはとても心配そうな顔で部屋を出ていったのだった。
「学園に通うまで後一年。」
まだ物語は始まってはいない。だからと言って今できることも思いつかなかった。なぜなら学園には通わなければならないのだろうから。なら私が第二王子フェルと婚約しなければ解決なのではないだろうか。
「決めた、近づかないでおこう。」
それにしても、私本当に死んだんだな。
あの日、友人が書いた小説「エレナは恋をする」の最終巻だったのだが、私は見ることなく死んでしまった。と言っても結末だけは友人のひまりから少し教えてもらっていた。結末はエレナとフェルが結婚して終わるという誰でも想像できる内容だったが。
私は「ヒロイン脱却計画」と書いた紙にフェルには近づかない、話さない、と書くのだった。
その時バタバタと慌ただしい足音が聞こえた。そしてドアがバタンと開いた。何事⁉︎と思いドアの方を見るとそこには心配そうな顔をしたエレナの母と父が立っていた。
「お、お母様。」
物語を知っているとはいえ、エレナの記憶がない以上母と呼ぶには勇気がいる。
「エレナ……リエからエレナの様子がおかしいと聞いてきたのだけれど、大丈夫?」
そう、エレナの母ことアリシアが話す。父、アベルも心配している様だ。
「大丈夫よ、ただ悪夢を見て少し混乱してしまっただけよ。ごめんなさいね、リエ。」
と、私は渾身の笑みを浮かべた。この小説のヒロイン、そしてこの美貌から笑顔を向けられると何もいえないだろう。
「そうだったのね、でも病気とかじゃない様で安心したわ。怖かったわね、悪夢を見てしまって。」
「ええ、でも本当に大丈夫よ!」
まだ心配そうだったが、どうにか父と母を下がらせた私は今、朝食を部屋で食べている。母が、安静にという事で部屋で食べることになったのだ。
「でもお嬢様、本当に大丈夫ですか?」
と、まだリエは不安そうだ。
「ふふ、本当に大丈夫なのに。」
「お嬢様は私の恩人です。何かあったら心配するに決まっているじゃないですか!」
そう、リエにとってエレナは恩人なのだ。
昔、リエは奴隷だったのだが、奴隷商から抜け出したリエを私が助けたのだ。その後、違法な奴隷商の奴らも捕まり、何人かは私の家の使用人として働いている。リエもその一人だった。……という設定を今思い出した。
内心危ない、危ないと思いつつ、私は話を合わせるのだった。
「そう……だったわね。」
こうしてエレナとしての生活が始まったのだった。