一話
「エレナ様。起きてください、朝ですよ!」
そう、見覚えのない人に声をかけられて目が覚める。目の前には、メイド服なるものを着て黒い髪をまとめた女の人が私を覗き込んでいた。
「はえっ⁉︎」
私はここで意識が覚醒する。そして周りを見渡すと知らない景色が広がっていた。アンティークな部屋をしており、まるでお嬢様の様な部屋である。
「エレナ様?大丈夫ですか?」
全くもって大丈夫ではない。
私はただの会社員で、友人が書いた小説の最終巻を買った帰りに車に突っ込まれ、死んだと思い、目を覚ました瞬間知らないところにいたのだ。これは誰でも混乱するだろう?
ふと、目の前にある鏡を覗き込む。そこにはまるで妖精の様な金髪のロングで瞳がブルーな女の子が立っていた。……妖精の様な金髪ロング?なんか聞き覚えがある単語の様な……。私はメイドをジロジロみる。
「あなた、お名前は?」
「はい?私はお嬢様も知っての通りリエというものです。というか本当にどうしたのですか?」
これで確信してしまった。
ここは、私の友人が書いた小説の世界だ。
私の前世、黒澤円はいたって平凡な日常を送っていた。普通に学生生活を送り大学へ進学、その後就職した。そんな生活の中でも私の中で特別なことがあった。それは、友人の書いた小説を読むことだった。私の友人こと、浅井ひまり。私より早くに結婚した彼女と、私は学生時代小説を書き合う仲だった。
高校生の時、ひまりと共同で小説を書くことになった。それは楽しい時間であっという間に最後まで書き終わった。
その後ひまりは小説家になり幾つかの本を世に出した。ある時、私と学生時代に書いた小説、「エレナは恋をする」をひまりが練り直して書いた小説がとても人気になった。私は陰ながらその様子を応援していたのだった。
その小説の内容こうである。
伯爵家であるエレナ・テイラーは妖精の様な美しい少女だった。ある日、イルリス王国が建てたガーベラ学園に通うことになる。そこで第二王子と出会い、二人は恋に落ちていくといういたってシンプルな恋愛ラブストーリーである。
そんな小説に私こと黒澤円はヒロインエレナ・テイラーは転生してしまったのである。
さて、どうしよう。これはきっとよく物語で見る転生というやつだろう。私はリエというメイドを下がらせて一人机の上で頭を抱えていた。
「よりにもよって……なんでヒロインなんかに……。」
そう、頭を抱えていたのには理由がある。私は、転生するとしてもヒロインだけにはなりたくなかったのだ。
ヒロインになりなく無い理由、それは二つある。一つ目は第二王子フェルが全くもって好みでは無いということ。二つ目はヒロインになるということ、それはいじめに遭うことを意味する、という事だ。
この、「エレナは恋をする」という小説はヒロイン、エレナのことを憎む悪役令嬢ルーサテルナという人物がいる。彼女は第二王子フェルの事が大好きだった。そのため、エレナのことが気に入らないという理由で、彼女は幼馴染のジュンと一緒にエレナのことをものすごくいじめるのだ。それはもう酷いもので、シャンデリアを落とし、エレナを殺そうとしたり、紅茶に毒を入れて殺そうとしたり……。とにかく殺されそうになる。
「死ぬのだけはごめんだわ!」
そう私は立ち上がった。そう、私がエレナというヒロインになった以上、生き残れる気がしないのだ。それにいじめられるのは精神的にもキツい。
私は、決意した。私はヒロインなんてならないことを。