ついに決着!! 俺 VS 魔王
暗闇の中、金網に囲まれたケージのみ照らされている。
大勢の観客たちがいるが、その中に人間は一人もいない。
皆、魔王軍の手下たち。魔獣たちだ。
静まり返った魔王城内にアナウンサー役の魔獣の声が響き渡る。
「ソレデハ、マモナク ケットウヲ カイシスル・・・」
俺が頭上を見上げると、天井には薄気味悪い赤紫色のシャンデリアが吊り下がっている。
ついにこの時がやってきた。
俺の輝くこの日がー
相まみえるのは魔王なんちゃらかんちゃら。訳の分からん長ったらしい名前の魔王だ。
面倒なのでこれからはコイツの事を魔王と略す。
魔王は黒の短髪。蚊も殺せないような優しい顔をしているが、筋骨隆々の体は正真正銘、最強の魔物だ。
お互い武器は無し。ステゴロでのドツき合いだ。
魔王は俺のキャラとは正反対で世間の評判はいい。人を襲うこともないし、なにより平和主義者だ。アンチの数も俺より少ないだろう。
そんな魔王を羨ましいかって?
冗談はよせ。俺は俺以外に興味はない。
俺はケージの中央で魔王と握手を交わし深々とお辞儀をした。この行動に観客の魔獣たちがどよめいた。
俺が無礼な態度をすると予想していた彼らにとっては以外だったのだろう。
それもそのはず、今日まで俺はあらゆる手段を用いてヒール役を演じ、魔獣たちの反感を買ってきた。
それもこれもこの決闘を盛り上げるためだ。
だが今まさにその戦いが始まろうとしている。もう茶番は不要だ。
アナウンサー役の魔獣がスポンサーの名前を読み上げていく中、間もなく始まる決闘前の心地よい緊張感を味わう。
恐らくこの城内、いや世界中のほとんどの奴らは俺が負けると思っているだろう。
その予想と一緒に魔王をぶっとばしてやる。
俺は軽くジャンプをしながら肩を前後にゆさぶり、戦闘に備えた。
見せてやる。この華麗なる俺の圧倒的な攻撃をっ!
ケージの反対側では魔王がこちらを見ながら戦闘開始とともに突進してきそうなそぶりをみせている。
ふっ、面白い。返り討ちにしてやろう。
「レディー・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
「ファイッ!!」
カーンという甲高いゴング音が響き渡る。
それと同時にケージ中央へ行き、魔王との間合いを図る。
俺の威圧に圧倒されたのか魔王は少し下がった。
右手でフェイントをかけながら様子を探る。
ジリジリ、ジリジリと少しづつ魔王との距離を詰めていく。
魔王は俺の正面から流れるように左にスウェイした。
どうやら簡単には間合いを掴ませてくれないらしい。
そのまま俺と魔王の探り合いは続いた。
どうやって攻めようか決めかねていると突然魔王の猛烈な右ローキックが俺の左足を薙ぎ払った。
あまりの早さに対応できず俺はこけてしまう。
なんだとっ?
俺はバランスを崩しながらも、すぐさま立ち上がり右ストレート。正確に魔王のアゴに当てた。
魔王はバランスを崩し倒れた。
一瞬のうちに起こった殴り合いに観客たちが歓声をあげた。
俺はこの瞬間、勝ちを確信した。
魔王は俺の高速パンチに反応できていない。恐らく全く見えていないのだろう。
俺は心の中で両手を空高く掲げた。
倒れこんだ魔王が立ち上がるのを待つ。魔王、今夜は俺のパンチでいい夢見せやる。
再び魔王とケージ中央で睨み合った。
しかしさっきと違い魔王は警戒度を上げている。
どうやら俺の右ストレートがトラウマになっているらしい。ふふふ・・・
俺はさっき魔王にもらった右ローを警戒しつつ間合いをつめた。
次の瞬間魔王が右のミドルキックを放った。
俺はそれをもらいながら、すぐさま左ストレートでカウンター。
しかし距離が遠すぎたため外れる。
続けて魔王が詰め寄り、左フックからの右ストレート。
それを数センチ ギリギリでよけてからの左ストレートと右フック。
これが完全に決まり、魔王を吹っ飛ばした。
そして更に追い打ちをかけようと倒れた魔王へ駆け寄る。
上半身を起こした魔王の顔面に右ストレート。しかし感触が浅い。
上体をのけ反られてダメージが半減された。
そしてこれと同時に俺は左足を捕られてしまう。
不味いっ!!!!
魔王が俺の左足の付け根部分を両太ももで挟み、両手でがっちり抱きしめて固定している。
クソッ、貴様このまま左足を捩じる気かっ!?
強烈な痛みが俺の左足を襲う
「ぐわぁあああっ、魔王っ!!貴様っ!貴様ぁああーーーーっ!!!」
体を回転させてなんとか左足を抜かなければっ!
俺は痛みを堪えながら急いで体をひねってなんとか左足を抜いた。
「よしっ!」
俺はすぐさま馬乗りになるように魔王に覆いかぶさった。
魔王は顔をガードしながらジタバタと俺を振り落とそうと暴れる。
暴れる魔王を地面へ押さえつけていると、魔王が俺の首に腕を回して自分の体へ引き込もうとしてきた。
「コイツッ!」
俺はその手をなんとか振りほどき、魔王から離れ立ち上がる。
それを見た魔王は顔を真っ赤にしながら、倒れたままの姿勢で俺にむかって両手を突き出し親指を上にたてて、満面の笑顔を作っている。
なかなかやるじゃないかとでも言いたいのか?
くそったれめ!
「早く立て!」
俺が怒鳴ると、魔王はゆっくりと立ち上がった。
俺は体の芯から沸々と怒りがこみ上げてきたが、それを無理やり抑えた。
「魔王、貴様は俺が今夜・・・・絶対にぶっ潰してやるっ!!」
こうして俺と魔王は再びケージ中央で睨み合った。
じわじわと距離を詰める俺に対して魔王は右へ左へ立ち位置をズラしながら俺の正面に立たないようユラユラと動いている。
「ウロチョロしてんじゃねぇええっ!!」
俺は魔王の顔面めがけてへ強烈なワン・ツーを放った。
しかしわずかに魔王の顔には届かない。
そのすきに魔王は腰を一気に落とした。そして俺の懐へ入り、テイクダウンを捕る姿勢に入る。
「てめぇ、魔王っ!! 簡単に俺を倒せると思うなよぉぉおおおっ!」
俺は後ろへ一気に下がった。タックルの威力を受け流すためだ。そして奴を掴んで自分の体から引きはがしケージの金網へ叩きつけた。
ガッシャ―ンッと大きな音が鳴り、金網から跳ね返った魔王が倒れる。
起き上がろうと四つん這いになった魔王の顔面めがけて蹴り上げるが、空を切る。魔王が体を後ろに反らし避けたのだ。
「チッ、運のいいやつめ!」
魔王は額を拭いながら慌てて立ち上がった。
「舐めるなよ、魔王! いくら俺が人間だからって、そんなへなちょこタックルじゃテイクダウンは取れねぇんだよ。くそがっ」
ここでアナウンスが流れる。
「サンフンケイカッ! サンフンケイカッ!」
ということはあと2分あるのかと考えていると、魔王のハイキックが飛んでくる。
俺はガードで凌ぐ。
ふん、こんなハイ俺には通用しないぜ、魔王!
続いて魔王が右ストレート。それを俺はなんなく交わし、左フックと右フックを即座にお見舞いした。
魔王が膝をつく。
「くくくく・・・俺と打ち合いなんて100年早いぜ、魔王っ!」
倒れた魔王を右足で思いっきり蹴飛ばし、早く立てよと右手でクイクイっと合図した。
その瞬間、観客たちが湧いた。
「ナ・・ナンナンダ、アノニンゲンハッ!!」
「マオウサマガ、アットウサレテイルッ!!」
どうだ、魔王。
観客たちの声が聞こえるか?
これからは俺の時代なんだよっ!
立ち上がった魔王が右のローキック。
それをかわして俺が左フック。
魔王がバックステップでよけてワン・ツー。
しかしそのパンチは俺に届かない。
「ノコリイップンッ! ノコリイップンッ!」
会場に再びアナウンスが響き渡る。
ワアアアアアッと観客のボルテージもMAXまで引きあがる。
「さぁ、残り1分を切ったぜ。魔王。かかって来いよ!」
お前が俺に殴りかかってきたらカウンターしてやるからよぉぉおおっ!!
そう、先手より後手の方が有利なのだ。
冷静を装っていても頭に血が上っている魔王へ挑発を繰り返せば先に手を出してくるだろう。
しかし警戒している魔王は俺と睨み合ったまま、なかなか手を出してこない。
くそっ、魔王の野郎! 次のラウンドまで持ち越す気だなっ!
とその瞬間、魔王が低い姿勢のままタックルしてきた。
俺は奴の頭を地面に押し付けそれをねじ伏せた。
魔王はそのまま手を伸ばし俺の右足掴んだ。
再び足の関節を狙ってくると思い、俺はとっさに体を一周回転させながら魔王の手を右足から振りほどく。
そしてつんのめりになった魔王の顔面にパンチラッシュッ!!!!
「ウォアアアアアッ!!」
それを見ていた魔獣たちの悲鳴とも呼べるような叫びが聞こえる。
しかしそんな事はお構いなく俺は攻撃を続ける。
俺のパンチをモロにもらいながら魔王は再び俺の左足を取ろうとしたので、俺は足を後ろに下げながら顔面ラッシュした。
カーンッ
ゴングが鳴った。
「イチラウンド シュウリョー!!!」
ゴングが鳴り止んだ後、俺は立ち上がるが魔王は地面に沈んだままピクリとも動かない。
その異様な光景に城内は静まり返る。
俺は静寂の中、頭上高くゆっくりと右手を上げた。
しかし盛大な歓声は聞こえなかった。