第七話 Sランク冒険者
俺は流石にそろそろこの森を出ようと思っていた。
五年もの間、俺はこの森の『王』をやってきたが俺は人間だ。
人が恋しくなってきていた。
俺は魔物達を置いて一人で旅に出る事にした。
流石にシーラを連れて行くことも出来ない。
説得に手間が掛かったが『王』の代理としてシーラにはここで頑張ってもらいたい。
決して押し付けた訳ではない。
それにシーラは俺の相手をしている内に鬼人よりも強くなっていた。
シーラ達に別れを告げ一人、森を歩き始めた。
久し振りに森の浅いところまできたが魔力が薄いため空気がおいしい。
そして数時間歩いていると少し前の方から戦闘音が聞こえてきた。
気配を消して近づいてみると、一匹の魔物と男女のペアが戦っていた。
久しぶりに人間を見て、今すぐ飛び出しそうだったが堪えて戦闘を見守る。
二人は連携がよく出来ており間合いの取り方、剣速どれをとっても達人級だった。
しかし、ここは禁忌の森であるためそう簡単にはいかない。
命の危機を感じた魔物の目が赤く染まり暴走状態に入る。
基本暴走はこの森では弱い部類に入る魔物に見られる現象で理性が無くなる代わりに身体能力が倍増する。
俺はこれを狂化と呼んでいる。
流石に押されてきていたため俺は飛び出し首を一刀両断した。
◇
俺達はギルドから依頼されて禁忌の森に来ていた。
最近どうにも森の魔物達が大人しいらしく新たな『王』が誕生したんじゃないかと噂されていた。
その為Sランク冒険者である俺達夫婦に声がかかったのだ。
「シド、気をつけて。魔物がくるわ」
「あぁ、リリー後ろは任せるぞ」
俺は魔物目掛けて駆け出した。
目の前の魔物はBランクの魔物ベアよりも更に巨大で強靭なSランクのグリズリーだった。
まだ森の浅い方にも関わらず大物がきて驚いたが落ち着いて対処する。
グリズリーはベアと攻撃手段は変わらない。
そのため攻撃は避けやすいのだが、大きく逸れないと腕力からくる風圧で吹き飛ばされる。
それに地面に衝撃が加わると割れる。
俺はそれに気をつけながら間合いを取る。
そして、リリーと協力しながら少しずつ傷を与えていた。
そして、瀕死まで追い込んだ時、グリズリーの目が赤く染まり力が増した。
少し反応が遅れ、もろに攻撃をもらいそうになったが剣で衝撃を流す。
それでも数メートルは飛ばされた。
理性を失いますただ暴れるだけの獣になったグリズリーに苦戦していると横から少年が飛び出してきて、首を斬り落とした。
「なっ…君は一体…」
「シド!大丈夫?」
「あ、あぁ…俺は大丈夫だ。そんな事より君は一体どうやってグリズリーの首を斬ったんだ?」
「あぁ、この刀で斬りましたよ」
少年は左腰に下げていた刀に手を置いて言った。
刀の存在は知っていたが実物を見たことが無く食い入るように見入った。
素人目からも分かるくらいの業物だった。
「その刀は相当の業物なんだろう。しかし、それでもなおグリズリーを首を両断するなんて…」
グリズリーの首はそこら辺の石はおろか、鉱石よりも硬い。
俺の剣でも傷をつけるので精一杯だったのに。
俺は少年の底知れぬ力を垣間見た気がして少し興味が湧いた。
「君は一体ここで何をしていたんだい?」
「俺はここに5年間住んでました」
「「は…?」」
思わず俺達の声が重なる。
「待て待て待て!?五年間!?それも子供が!?」
「貴方…冗談じゃないわよね…?」
「冗談?それを言って何になるんですか?」
「そ、そうよね…」
衝撃的な話を聞き、ここにきた目的を忘れていた。
「おっと…そうだった。五年間も過ごしていたなら『王』の魔物を知っているんじゃないか?」
「『王』の魔物ですか……知ってますよ」
「おぉ!そいつが最近変わったって噂されてるんだが本当なのか?」
「本当ですよ、鬼人は僕が殺しましたから」
「「えっ…?」」
またもや二人の声が重なる。
「冗談じゃ……なさそうだな…」
「まさか本当だったなんて…」
「つまり今この森の『王』は君、と言う事になるのか?」
「そうであり、そうじゃないですね」
「どう言うことだ?」
「俺はこれから旅に出ようと思ってます。一番信頼できる魔物に俺の代理を任せたのでそう言いました」
「なるほど…でもこの事実を知ってしまった以上、上に報告しなくちゃいけない。ちょっとの間だが、俺達について来てくれないか?」
「俺がですか?」
「あぁ」
「……分かりました」
俺は初めて『王』に会ったがまさか人間だとは思わなかった。
リリーも同じようでしばらく考え込んでいた。
今日は日が暮れ始めていたので近くの洞穴で休息をとり、明日の朝一番に王都に帰る事にした。