第二話 擬似覚醒
俺は黒焦げになった狼の魔物もといブラックウルフを食っていた。
「うぇ…不味いな…」
この森には常に死の気配が充満しておりとてもじゃないが食えるものなどなかった。
なので仕方なく魔物を食っていた。
腹が満たされた後、俺はこの森から出る為に歩き出していた。
この森は動くと危険なのだが救援が来るはずもなく動くしか無かった。
それに俺はこの雷神と言う刀は凄い力を秘めているんじゃないかと思う。
その力を引き出す為にも俺自身強くなる必要があるだろう。
そう考えるとやはり動いていた方がいいだろう。
雷神を常に腰に携えたまま歩いていると襲ってくる魔物が減った気がする。
確かにこの刀は尋常じゃない気配を漂わせている。
恐らく襲ってくるならAランク上位の魔物だろう。
そんな事を考えていると目の前で咀嚼音が聞こえてきた。
俺は茂みに隠れて様子を見てみる。
するとそこには体長7メートルはあろうかという熊がいた。
なんとなく熊といったらグリズリーというイメージがあったのでそう呼ぶ事にした。
グリズリーは食べる事に夢中になっていたが雷神の気配を感じたのか俺の方を見た。
「マジかよ…」
俺は茂みから出て雷神を体の前に構える。
グリズリーはこちらに体を向け、二本足で立ち上がった。
『グォォォォォォッ』
グリズリーは前足を無差別に振り回して攻撃をしてきた。
前足の軌道は読みやすいがスピードとパワーが尋常じゃない。
掠るだけでも致命傷になるだろう。
俺は冷や汗をかきながら必死に避けていた。
これでは当たらないと思ったのか、グリズリーは前足を下ろし、俺に向かって突進してきた。
「うぉっ!?」
俺は咄嗟に横に避ける。
姿勢が少し崩れたがなんとか持ち直した。
『グォ…』
グリズリーはこちらを睨みながら唸っている。
すると、グリズリーの体からオーラのようなものが溢れ出てきた。
初めてみるものだったがそれが魔力だとわかるまで時間はかからなかった。
あまりの魔力量に空間が歪んで見える。
その時俺はやっと気づいた。
この森がSSSランク指定の禁忌の森だと言う事に。
Aランク上位だと思っていたグリズリーも恐らくSランクの魔物だろう。
でなければこの魔力量はおかしい。
グリズリーの魔力は体全体を覆っており、身体強化をしているようだった。
少し間があった後、俺の視界からグリズリーの姿が消える。
そして気がつけば前足が目の前に迫ってきていた。
避ける術もなく吹き飛ばされた。
俺は全身の骨が砕けた音を聞き、意識を手放した。
グリズリーは意識がない俺を見て勝ちを確信した。
ゆっくり近づいていき、目の前までくると俺を食べるべく口を開く。
その瞬間、俺の姿が消えたと同時に視界が暗くなる。
『グォッ!?』
グリズリーは両目を潰されていた。
だが、グリズリーは魔力を使って状況を把握していた。
俺に切られた事を知って激怒した。
『グォォォォォォッッッ!!!!』
動きも先程よりも速くなっておりパワーも上がっている。
にも関わらず攻撃は俺に当たらなかった。
そして、いつの間にか攻撃手段である前足も切断されており、心臓を刀で貫かれていた。
『グォ……』
グリズリーは力無く倒れた。
俺は刀を鞘に戻して後ろに倒れた。
◇
俺は目が覚めるとまず、血だらけで倒れているグリズリーを見つけた。
俺は訳が分からなかった。
生きていることさえ理解が出来ないのに目の前にはグリズリーの死体がある。
俺は自分の左腰にある刀を見つめた。
「また…お前なのか…?」
あれだけ酷かった怪我も元通りに治っている。
しかも、体に少し違和感を感じる。
「なんだ…?体が思い通りに動く…」
当たり前の事を言っているようだが、前より体が軽くなったような気がする。
前も結構動けてはいたと思うが更に動けるようになった感覚だった。
試しに握り拳を作り力を込めると、バチバチっと拳に電気が迸った。
「これは…魔力か?」
俺はこの世界に生まれた当初は誰でも魔力を持っているのだと思っていた。
だが、実際母に聞いてみるとある一定の強さに達すると人は魔力が使えるようになるらしい。
それを母は覚醒と言っていた。
それと、覚醒した時にその人の適性によって属性が変わるらしい。
その属性に対する適性が高ければ高いほど覚醒した時にその属性が現れるとも言っていた。
どう言うことかと言うと適性があっても低ければ魔力だけが解放される。
逆に高ければ属性も解放されると言うことだ。
「俺が覚醒したのか…?」
それに俺は雷に対する適性が高いらしい。
「だから、お前なのか」
しかし、10歳で覚醒したのは前例がなく、そもそも本当の意味で覚醒したのかもわからない。
と言うと恐らく刀が強制的に覚醒させたのではないかと俺は思っている。
ある一定の強さと言うのはその人の成長限界である事とある一定のランク以上の強さであることの可能性が高いと思っている。
俺の予想ではAランク以上じゃないかと踏んでいる。
そしてもう一つ、これは完璧な持論だがこの覚醒は俺の覚醒ではないと思う。
恐らくこの刀というより職業の覚醒だと考えた。
根拠は俺の実力が伴っていないと言うのと俺の職業がユニークだからだ。
職業が覚醒したと言う話は聞いた事がないが、ユニークはどれも強力だと知っている。
だから覚醒してもおかしくはないだろう。
そうしたらなぜ俺が魔力と属性を解放出来ているのかと言う事になるがこれは恐らく職業の覚醒が俺にも影響を与え、擬似覚醒になったのではないかと予想している。
まぁこれは前例がないのでなんとも言えない。
とりあえず今は職業の影響だと思っておこうと思う。
傷が治ってる件は全くもって予想できない。
一応これも覚醒の影響だと暫定しておく。
ある程度自分の中で情報を整理できたのでグリズリーの肉を貪り食った。
もちろん生だ。
案の定腹は下したがそれもじきに慣れてくるだろう。
こう言う慣れも生死を分ける今には重要な事だ。
日が落ちて来たので俺は刀で剥いだグリズリーの毛皮にくるまって寝る事にする。
グリズリーの毛皮を使っているから恐らく魔物は襲ってこないだろう。
今日も禁忌の森にいるとは思えない程爆睡した。
新しくSSSランクというものが出て来ましたがこれは6段階のランクでは区分出来ないランクとなっています。後々その他のランクも出てきます。
ユニークというランクも出てきましたがそのままの意味です。このランクは武器や道具のランク分けの時に使います。