最高の友との最悪な出会い。
旅に出て一ヵ月が過ぎた。
大変だったが過酷ではなかった。
師匠の元でした修行もケティとの商談も全部役に立った。
そんなある日のこと。
街道宿屋で酒場と兼用、格安な上に料理も旨いからそこそこ人がいる。
そのウィンディアナ王国領の国境付近、村の宿屋で早めの夕食をしている時だった。
「戦士、魔術師、何でもいい…冒険者がいたら力を貸してくれ、飛竜退治する」
体躯が立派な男が、いきなり宿屋に入って来て酒場の喧騒をかき消した。
その男の名はグランド、魔獣退治を生業とする狩人の旅団のリーダーだ。
飛竜と聞いては黙ってられない。
俺の他に数名が名乗りを上げた。
「助かる、出発は明朝…準備しておいてくれ」
そんなわけで魔獣 飛竜退治だ。
明朝出発する。
「なんだ盾持ちかよ…」
「?」
飛竜目撃地点に向かう途中、槍を持った細身の男が呟いたのを聞いた。
どうやら俺の事らしい。
あとで聞いた話では、盾持ちとは貴族のお付きの事で、槍や盾、その他の武具の持ち物係の事らしい。
そして盾を持ちながら周りに貴族がいないのは、解雇されたか逃げ出した奴隷という。
すなわち『盾持ち(ヘタレ)』は偏見と蔑称を兼ね備えた悪口と言う訳だ。
「盾持ちに魔族…なんだよ上手くいくのかよ…」
槍を持った男はブツブツ言いながら先を歩く旅団に紛れた。
「それではここに拠点を置く、明日からは飛竜退治だ。しっかり休んでくれ」
グランドと副長は、設営された大きなテントに入っていった。
他の参加した冒険者も各々、休む場所を探している。
「やれやれ…」
「…」
良さそうな木を見つけたのでそこに腰下ろしたら先約がいた。
「ここいいか?」
「…」
無言の肯定と受け取り、腰を下ろす。
少し腹に入れとくか。
簡単な竈を作り火をつけて鍋を掛ける。
茸と山菜、ここに来る途中に拾っておいた。
それを持ってきた味噌で味付ける、残り少なくなったな。
「食うか?」
「…いい、いらない」
「そうか?」
フードで顔が見えない。
さて食べ終わり、戦に備え装備の確認を。
「のあッ!?」
「…」
近づく気配に気づいたときは間近に顔があった。
「なぁ、これなんだ?」
「こ、これか?これは…」
驚いた、女だ。
しかも魔族だ。
竜より出でた種族で魔界の住人。
太古の戦争時に魔王についてきた種族だと言われる。
特徴的なのは竜角より変化した耳で、どんなに離れていても仲間同士で会話が可能だという。
まぁ、嫌われていたのは昔で今ではそこら中にいる種族の一つ。
肌の色から確か黒魔族か。
手入れを始めた装備に興味津々の様子だ。
「これ、なんで穴開いてるんだ?」
「これは投げナイフの一種で…」
穴に硬糸を通して結び、手頃の木に向けて投げる。
的に当たった硬糸を引っ張り手元に戻した。
「なんだこれ!?面白いな!」
「なんだ興味ありか?一本やるよ」
「え、いいのか!?」
手に取ると大事そうに懐にしまった。
「じゃぁ、これやる」
「これは?」
「ここ押すと…」
精密で緻密な文様の飾りと鋭い刃の仕込み(ギミック)ナイフだった。
「風の精霊の呪いが掛けてある」
そう言って、何か呟くと刃が出たナイフは浮かぶ。
「凄いな!?」
「『風よ』だ…それで自由に動かせる」
やってみると結構難しい、練習が必要だ。
「『風よ』…む、難しいな…」
失敗したのを見て、笑う彼女の笑顔が見れた。
「ウガルだ」
「俺は…」
お互い自己紹介して握手する。
「明日からよろしくな、お前、気に入った!」
「ははは、よろしく」
「それじゃ先、寝る…少ししたら起こせ、見張り交代だ」
「了解…」
そういうと直ぐに寝息を立てた、よっぽど信頼してくれたのか気を張り詰めていたのか。
寝顔は可愛かった。