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第86話 セミ
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
今日も今日とて、朝のお散歩だ。
道を歩いていると、セミが落ちていた。
仰向けで鳴いている。
うーるさーいなーー。
パクっ!
ジジジジジジ。
うわ、まだ動いてるぞ、こいつ。
セミを咥えたオレを見て、みたらしやめろぉ! 吐き出せ! って、パパさん、大慌てし始めた。
えー? ダメなのー?
ぺっ。
途端にセミが、どっか飛び去って行っちゃった。
あーあ、面白かったのに。
パパさん、残り短い命なんだから、自由にさせてやろうよ、だって。
ふーん、そんなもんかー。
あー、暑いなぁ。
パパさんが汗を拭きながら、早く帰ろうって言ってる。
うん、残念。
今日の散歩コースは長いよ?
照りつける日差しの中、オレはたっぷり散歩を楽しんだ。
パパさんは、帰ってきたとき、尋常じゃないほど汗をかいていたけどね。
遠くでセミが鳴いている。
さっきのセミじゃないだろうけど。
どんまい、パパさん。
そして今日も暑い一日が始まる。