第364話 何でもない日常
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
ちょっと湿気があるけど、今日も朝から晴れていて、悪くない天気だ。
鳥が遠くで鳴いている。
後ろを見ると、眠そうな顔をしたパパさんが白いジャージに着替えている。
オレはリードを咥えて、パパさんを待つ。
さぁ、散歩の時間だ。
あぁ、言っておくが、オレがパパさんに散歩に連れて行かれてるんじゃないぞ。
パパさんの運動不足解消の為に、オレがパパさんを散歩に連れて行ってるんだ。
そこんとこ間違えて貰っちゃ困る。
家を出たオレとパパさんは、農道を歩き、公園を通り抜け、町をグルっと回って帰宅した。
パパさんが息を切らしていない。
最初の頃に比べて、パパさんのスタミナが段違いに付いたのが分かる。
オレも、協力している甲斐があるってもんだ。
家の中からコーヒーの匂いがしてくる。
ママさんが淹れてくれているのだろう。
こうして我がイガラシ家の朝が始まる。
何てことない一日だ。
でも、平穏無事が一番さ。
――さ、『みたらし』、足を拭いてやる。家に入るぞ。
濡れタオルを持ったパパさんがオレの足を持つ。
――『みたらし』、お水用意したわよ。飲みなさい。
お腹が大きくなってきたママさんがニコニコしながらオレを出迎えてくれる。
今日もオレは朝から元気だ。
そして、もうすぐオレは……お兄ちゃんになる!