第359話 少年と憂鬱
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
散歩中、公園に立ち寄ったところで、ブランコに学生服を着た少年が座っていた。
あれ、どこかで……。そうだ、小学生のとき、一年中半袖半ズボンで居た子だ。
そういえばこの春、中学生になったんだっけ。
にしては、随分へこんだ雰囲気を醸し出している。
――どうしたんだい?
――あ、ワンコくんと飼い主のオジサン! お久しぶりです。
ショボンとした少年の顔が明るくなる。
――何かあった?
パパさんが少年の隣のブランコに座った。
ちょっとキツそうだ。
オレは少年の傍に寄った。
少年がオレを撫でながらゆっくり話し始める。
――中学に入ったら楽しい生活が待ってると思ってたんだけど、勉強は難しくなるし、小学校のとき仲良かった一個上の奴らは急に先輩風吹かせ始めるし、宿題だ校則だって先生は怖いし……。なんか疲れちゃった。
パパさんはしばらく黙ってブランコを緩く漕いでいたが、唐突に口を開いた。
――大きな声では言えないんだけど……。ちょっと学校休んでみたら?
――え?
少年が目を丸くする。
――だってそんなことしたら!
――潰れて引きこもっちゃう前に、適度に心と身体を休めるんだよ。それでまた学校に行く勇気が出てくる。……多分ね。
――そっか。それでもいいんだ。ありがとう、オジサン! パパとママと話してみる!
パパさんが笑顔で見送った。
ひょっとしたら自分のときのことを思い出しているのかもしれない。
ゆっくり休め、少年。
休んで気持ちが楽になったら、また学校に行けばいいのさ。