第355話 たまには鍋持って
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
――おい『みたらし』、何で今日に限ってアルミ鍋を咥えているんだ?
そんなの決まってる。
カッコいいからだ!
散歩に行くべくリードを用意したパパさんが、アルミ鍋を咥えたオレを前に困惑した顔をしている。
――え? 行くの? そんなの持って?
うん、行くよ? この鍋持って。
最初パパさんはオレから鍋を取り上げようと四苦八苦していたが、結局最後には諦めて、このままで散歩に行くことになった。
ふっふっふ。
どうだい、このカッコよさ。
オレはアルミ鍋を咥えて、胸を張って歩いた。
ホーホーホーホー。
思わず声が出る。
――なんか、『しらたま』みたいな声が出てるぞ、『みたらし』。
みんなすれ違いざま、憧れの視線でオレたちを見てきた。
女の子なんて、オレを指差してクスクス笑っている。
パパさんはなぜだか顔を真っ赤にしているが気にしない。
ほら、照れ屋さんだから。
こうして散歩の最中、パパさんはずっと下を向いていた。
まったくもう、照れ屋さんなんだから。
どんまい、パパさん。
そして、オレは久々に愛用のアルミ鍋を見せびらかせて、とっても嬉しいぞ。