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第35話 きゅうり
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
散歩中、オレはたまたま通り掛かった農家のお爺さんから、緑色の長い棒を貰った。
表面にイボイボがあって、微かに反っている。
どうやらそれは、きゅうりという食べ物らしい。
クンクン。
匂いを嗅ぐ。
うん、悪くない。
かじってみる。
パリっ。ポリっ。
何これ! 上手い! 変な音するし!!
ワン!
興奮して跳ね回るオレの背中を、お爺さんが撫でてくれた。
あっという間に一本食べ終わってしまったオレに、もう一本きゅうりをくれる。
ポリっ。ポリリっ。
瞬く間に無くなる。
パパさんが慌ててオレにカメラを向けるも、きゅうりは既にオレの胃の中だ。
お爺さんが笑う。
ダメだなぁ、パパさん。
こんな上手いもの目の前に出されて、わざわざパパさんがカメラを構える時間、待っててやるはずがないじゃないか。
食べる様子を撮り損ねて、パパさんがガックリ肩を落としている。
残念だったね。
どんまい、パパさん。
そして今日も日が暮れる。