第340話 魚市場
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
オレたちは海で日の出を見た後、また少し車を走らせて、魚市場に寄った。
おぉ、なんかすっごいいい匂いがするぞ? こんな朝早くから人がいっぱいいるし。楽しそうだな。……え? 行けないの? オレ、行っちゃ駄目なの? お留守番? 嫌だぁぁぁぁ!!
パパさんとママさんはオレを一匹で車に残したまま、二人して歩いて市場に行ってしまった。
日陰に停めて貰ったから平気だけどさ。
つーまーんーなーいーーーー!!
三十分ほどしてパパさんとママさんが帰ってきた。
パパさんは白い発泡スチロールの箱を両手に持ち、ママさんはビニール袋を持っている。
でもオレ、すでに不貞寝中。
ふーんだ。知らないもんねー。
――そんなに不貞腐れないの、『みたらし』。いいもの買ってきたからねー。
そう言ってママさんがオレの前にトレイに乗ったマグロの切り身を数切れ置いてくれた。
え? 食べていいの? えへへ。許してやるか。しょうがないなぁ。
いっただっきまーす!
くっちゃくっちゃ。
うっまーーーーーーーーーーー!!
パパさんとママさんがそんなオレの様子を見ながら、それぞれ運転席と助手席に座って、魚市場で買ったらしい海鮮おにぎりを食べている。
――美味しいね、これ。
――美味しいな、これ。
うん、美味いぞ、これ!
朝から美味いもの食べてご機嫌だぞ、オレ。
そして潮風がとっても気持ちいいな。