第332話 お向かいの……
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
散歩に行こうと玄関先で待っていると、お向かいのオバサンが誰かと立ち話をしていた。
いつも無愛想で、パパさんやママさんが挨拶しても会釈をしたりしなかったりで、ろくに返事を返してくれないのに、今日はずいぶん嬉しそうに話してら。
パパさんは財布を探しに行ったみたいでまだ戻って来ない。
行儀は悪いけど、どうせこっちは犬なんだし、立ち聞きしちゃおっかな。
そう思ってオバサンの方を見ると、あれ? 相手は食品配達業者のオバサンだぞ?知り合いか何かかな。
――はい、では確かに代金ちょうど頂きました。次回の集金はこの日になります。時間は同じ頃で大丈夫でしょうか。
――はい、問題ありません。
……世間話じゃないぞ、これ。ただの集金日の打ち合わせじゃん。知り合いでも無さそうだし。なんでオバサン、こんなに嬉しそうに話してるんだ?
――では次回も宜しくお願い致します。
――はい、またお願いします!
食品配達業者のオバサンは丁寧にお礼を言って、また配達車に乗って行ってしまった。
お向かいのオバサンは、名残惜しそうにそれを見送っている。
――どうした『みたらし』、散歩行くぞ。
オバサン、パパさんを見るや否や、そそくさと引っ込んじゃった。
どんまい、パパさん。
やっぱりうちは、お向かいのオバサンに嫌われてるっぽいぞ。