第316話 歩いてる
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
今日も今日とてオレがパパさんと散歩をしていると、正面から歩いてくる犬がいた。
あれ? なんでなんで?
オレは焦ってそこで止まる。
――お? どうしたどうした? ほら、『みたらし』、歩くぞ?
パパさんがリードを引っ張る。
なぜオレが急に止まったか。
それは、普段外を歩くはずの無い犬が歩いてきたからだ。
だってオレ、こいつが外を歩いてるの見たこと無いもん。
ワンワンワン! ワンワンワンワン!
……吠えられた。
まったく。いつもながらうるさい犬だ。
そう、正面から来たのは、裏のおばあちゃんの家の『ごまだんご』だった。
だってこいつ、最近ずっと乳母車乗ってるんだぜ? そりゃビックリするよ。
――どうもこんにちは。
――こいつはどうも。あれ? 今日は『ごまだんご』ちゃん、普通に歩いているんですね、乳母車に乗らずに。
おぉ! パパさん、どストレートに聞いたぞ。
――そうなのよ。まぁでもほら、今日は暖かいじゃない? だからかしらねぇ、バギーに乗りたがらないのは。
――なるほど。 確かに今日は天気がいいですからねぇ……。
ワンワンワン! ワンワンワンワン!
だから吠えるなってのに。
疲れるよなぁ、こいつの相手。
そして今日も、早くここから逃げ出したいぞ。