第308話 パパさんとお兄ちゃん
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
お向かいさん家の息子さんが、塀のところに座ってタバコを吸いながら、じーっとこっちを見ている。
パパさんも気付いてはいるようなんだけど、何となく話し掛けづらくて気付かないフリをしている。
いつもの光景ではあるんだけど、今日は違った。
意を決した表情で、お兄ちゃんが寄って来たのだ。
――どうも。
――あ、やぁ。いい天気だね。
お兄ちゃん、もじもじしている。
何か言いたいこと、聞きたいことがあるんだろうけど、躊躇ってる感じだ。
――あの、オジサン、いつも動画撮ってるっぽいけど、ひょっとしてYouTuberなんですか?
――え? あぁ、まぁ……ね。
――やっぱり! チャンネル名とか教えて貰っていいですか?
――あ、じゃあ……これ。
パパさんが自分のチャンネルを見せる。
よりによって、『もももち』と一緒の、バズったときの動画だ。
――へぇ。こんな感じなんだ。凄いですね!
――まぁね。
お向かいのお兄ちゃんに説明するパパさんだが、何だか知らないけど、鼻高々になっている。
そんなに胸を張るようなことかなぁ。
良かったね、パパさん。
これで一人は視聴者が増えるぞ。