第307話 ワンスティック
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
オレは散歩中に見つけたいい感じの枝を拾って有頂天だった。
五、六十センチ程の長さの枝なんだが、咥えた感じがちょうどいい感じなのだ。
胸を張って歩くオレを、パパさんも苦笑いしながら撮影している。
と、十字路で横から、パパさんより年上っぽいオジサンに連れられた、見たことの無い白い犬がやってきた。
オレと同じくらいの大きさのその犬は、ツツっと寄って来ると、いきなりオレの咥えていた枝にかぶりついた。
え? え? ちょっとちょっと、何してくれてんの? オレが咥えているんだってば。
ところがその犬は、枝を奪うでもなく、吠えるでもなく、端っこを抱えている。
……これ、気に入ったの? でもあげないよ? オレのだから。
――す、すみません、うちの犬が。
――あはは。いいんですよ。でも喧嘩にならなくて良かったですね。
そうやってオレたちは、しばらく枝を二匹仲良く咥えて歩いた。
分かれ道であっさり枝を離したその犬は、ペコペコうちのパパさんに頭を下げる飼い主のオジサンと一緒に歩いていった。
白ワンコは、最後までしっぽふりふり、気分が良さそうだった。
……なんだこれ?
奪われなくって本当に良かった。
趣味が似てるみたいだから、友達になれるぞ、きっと。