第303話 左右を挟まれて
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
今日はパパさんママさんと車でお出かけだ。
といっても、どこか遠出するわけでは無い。
近所への買い物に連れてって貰っているだけだ。
ワンワンワン!
ワンワンワンワン!
ん? 前の方で犬同士、言い争う声がするな。
前を見ると、ほんの数台前。片側二車線の道路で、隣り合った車に犬が乗っているようで、しきりに吠え合っている。
窓を閉めているにも関わらず声がここまで届いてくるってことは、相当激しく吠え合っているってことだ。
――あぁいう風に車に乗ってて吠えられると大変だろうな、お互い。
――そうね。『みたらし』があんまり吠えない子で助かったわ。
まぁね。オレ、喧嘩とかしないもん。
と、前方の信号が赤になって、右車線を走行するうちの車が止まる。
さっきまで右車線にいた、吠える犬を乗せた車が右折するのか、一番右の車線に行った。
状況を整理しよう。
この車は右車線で停止中。
真左にさっきまで左の車線にいた吠え犬の車。
そしてすぐ真右は、さっきまで右車線にいて、右折用レーンに入った吠え犬の車。
つまりどういうことかというと、吠え犬同士の間に、挟まれてしまった構図だ。
ワンワンワンワン!
ワンワンワンワンワン!
オレ、関係無いのにー!
どんまい、オレ。
そしてオレ、吠えられるの苦手なんだよね。