第302話 映画
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
――それがさ、もうスッゴイんだよ! TVシリーズで置き去りになってた部分が全部見事に回収されてんの! よくあれだけのモノを矛盾なくまとめ上げたもんだよ。全編通してホントお祭り、って感じでさ! いやー、これ誰も文句が言えないだろ。もう神って感じ!
帰ってくるなり饒舌に話し出したパパさんを前に、オレとママさんはしばし無言になる。
パパさん、ちょっとテンション上がり過ぎ。
パパさんってば、朝から留守にしてると思ったら、映画を観て来たらしい。
アニメだ。
TVより遥かに大きなスクリーンで大迫力の映像を見るんだって。
うちのTVより大きいっていうと、あんまり想像つかないなぁ。
――良かったじゃない。公開楽しみにしてたもんね。
ママさんが洗濯物を畳みながら、パパさんにニコニコ笑顔を向ける。
――そうなんだよ! 開幕五分で前作の主人公がいきなり登場するしさ! 鳥肌モノだったよ。最後の戦闘なんて、映画館中でスタンディングオベーションだしさ! ……気持ちだけね。実際にやったら怒られちゃうからさ。それから……。
――はいはい、分かった分かった。
ママさんが苦笑する。
オレの知る限り、ママさんはこのアニメを見たことが無い。
興奮するパパさんに合わせているだけだ。
お疲れさま、ママさん。
そして今日は一日、パパさんは上機嫌だ。