第298話 お花見 後編
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
神社に着いたオレたちは鳥居をくぐってお詣りをした。
普通なら犬が境内に入ったら何か言われそうだが、ちょっと早めの時間だからか、人も少なくて、オレもお社の前まで行けた。
そうしてお詣りを済ませたオレたちは、神社の駐車場に来た。
ここは、地元の人たちに愛される隠れお花見スポットだ。
――咲いてる咲いてる!
――七分咲きってところかな。
うん、綺麗だ。
パパさんとママさんが、早速持ってたスマホで桜を接写し始めた。
――『みたらし』、そこに止まってこっち向いて。動画撮るからなー。
おぅ、まかせろ。
と、青いスポーツカーがバックで急接近して来た。
ブロロロロロロロロ!!
そこをどけとばかりに、エンジンを大きく噴かしている。
ちょっと危ないでしょ! オレたちここに居るってば。見えてるでしょ!
スポーツカーはオレたちを強引に押し退け、桜に当たるギリギリの位置に停まった。
ママさんと同年代くらいのサングラスを掛けた女性が運転席から降りてくる。
――危ないじゃないですか! 人が見えなかったんですか!
ママさんが気色ばむ。
――ちょっと写真撮りたいのでそこどいて貰えます?
女性はママさんの抗議を一切無視すると、青いスポーツカー越しの桜を何枚か撮って、さっさと去って行った。
さすがのママさんも、口が開きっ放しだ。
いやはや、色んな人がいるもんだね。
どんまい、パパさん、ママさん。
怪我しなかっただけ良かった思おうよ。桜、綺麗だし。