第29話 ふかふか
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
ガサガサ。
パパさんが包装紙を外す。
出てきたのは、真っ白なマクラだ。
パパさん、首が痛いんだって。
マクラが合ってないんじゃないかって。
マクラ一つに体調が左右されるって、人間って大変だね。
まぁそんなわけで、今日、お店行って買ってきたのがこのマクラ。
パパさんがソファに新しいマクラを置いたまま、席を外した。
オレは試しに顔を押し付けてみた。
ふか。
うん、いいね、これ。
今度は、体ごと乗っかっちゃおう。
ぼさっ。
あー、これいいわー。
気持ちいいー。
ゴロンゴローン。
体、擦り付けちゃえ。
戻ってきたパパさんが、オレの体の下のマクラを見つけ、奪おうとする。
当然、オレはどかない。
何度かトライして奪えず、パパさんがママさんに泣きついた。
ママさんは、あらあらと言いつつ、パパさんの肩を叩く。
よし、これでこの『ふかふか』はオレのものになった!
パパさんが悲しそうな顔をしているが、しょうがない。
オレの前に無防備に、こんないいモノを置いておくのが悪いのだ。
世の中、弱肉強食なのだよ、パパさん。
ニシシ。
どんまい、パパさん。
そして今日も日が暮れる。