第234話 押し売り
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
ピンポーン。
パパさんがインターホンに出ると、スーツ姿の若い男性が口をパクパクしている。
いや、外の音、聞こえてるよ? 絶対喋ってるフリしてるでしょ。そうやって、ドアを開けさせようと? バレてるって。
――何だろ。故障かな? しょうがないなぁ。
ちょ、ダメだよ、パパさん! フリだってば!
あぁあぁ。パパさん素直だから、ドア開けちゃったよ。
ドアが開いた瞬間、ドアを閉められないようにする為か、男性が隙間に足を突っ込んできた。
ガシャっ!
でもチェーンに阻まれて、入れられたのは足だけだ。
パパさん、ぐっじょーぶ!
――あの、市役所の方から来たんですけど、重要なお話がございまして……。
――何です?
――話をするにも、開けて頂かないと、話ができないといいますか。
――開いてるじゃないですか。何ですか?
――いやぁ、キチンと面と向かってですねぇ。なにせ重要なお話ですので……。
――『みたらし』。
ワンワンワンワン!
オレが外にまで聞こえる大声で吠えてやると、さすがにマズいと思ったのか、男性は悔しそうな顔をして逃げていった。
いいね、パパさん。
そして、こういう時は、どんどんオレに頼るがいい!




