第195話 コンタクトレンズ
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
――皆さん、動かないで!!
オバサンが去ったので、さぁ散歩を再開とオレとパパさんが歩き出すと、いきなり近くを通り掛かった若い女性が叫んだ。
あれは何だろうね。
見事なまでに通行人の動きがピタっと止まった中、クリスマスソングだけは呑気に流れてるっていう妙な感じ。
――コンタクトレンズを落としちゃったんです! すみません、避けてください!
いや、避けてくださいって言われてもなぁ……。
とりあえずオレはその場で固まった。
――探すの手伝います! どっちから歩いて来ました?
――ありがとうございます! バス停の方からです。
パパさんを含め、みんなして手伝い始めた。
おぉ、親切の輪が広がってる感じ、なんかいいね。
だが、捜索はたった二分で終わった。
――お姉さん、胸元……。
――あぁ! あった! ありました! 皆さん、ありがとうございました!
コンタクトレンズは、お姉さんの胸元に落っこちていた。
お姉さんは周囲にお礼を言って、駅の方に走っていった。
良かったな、お姉さん。
そしてやれやれ。今夜は色々盛りだくさんな日だ。