第194話 他犬の空似
オレの名前は『みたらし』。
三歳の柴犬だ。
――『ずんだ』ちゃん!
え? なになに? なんなの??
オレとパパさんが駅の反対口に行くコースを取ろうとすると、走ってきた小太りのオバサンが急に抱きついてきた。
ワシャワシャ撫でられる。
ちょ、誰だよ、『ずんだ』って! ちょっと、激しすぎぃ!
――あの、どちら様ですか?
我に帰ったパパさんがおずおずと聞いた。
――え? あぁ、『ずんだ』ちゃんじゃない。ごめんなさい、犬違いでした。
――こいつは『みたらし』と言います。似てましたか。
――えぇ。いきなりすみません。二年前に亡くなったうちの犬にそっくりだったから。
――二年前……ですか。それは流石に『他犬の空似』ですねぇ……。
――そうよね。分かってはいたんだけど……。撫でさせて貰っていいかしら。
――どうぞどうぞ。
すでに散々撫でられたけどな。
オバサンは、改めてオレを撫でまくると、頭をペコペコ下げながら去っていった。
二年前に亡くなってる犬と生きてる犬を間違えるのはちょっと……。
――愛が深かったんだろうなぁ。
どんまい、オバサン。
そしてきっとあの世から『ずんだ』が見守ってくれてるよ。