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第138話 秋桜
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
ピンポーン。
なになに?
見るとインターホン越しに女性が二人立っている。
――はい。
――あ、ご主人ですか? わたしたち、花を売っています。歌と踊りを披露しますので、買ってください。
言うが早いか、その手に秋桜を持ったまま、玄関先で二人が踊り始めた。
……むちゃむちゃシュールなんですけど。
インターホン越しに踊ってどうするのよ。
っていうか、その秋桜、散歩中道端に生えてるのを見たぞ?
プチっ。
あ、インターホン切れた。
時間切れらしい。
え? さっきの女性たちどうなったの?
パパさんも同じことを思ったらしい。
意を決したパパさんが、インターホンのモニターボタンを押した。
インターホンの小さな画面が、外の様子を映し出す。
……まだ踊ってるし。
パパさんはため息を一つつくと、インターホンに向かってひと言、言った。
――いりません。
新しいインターホン、役に立って良かったな、パパさん。
そして今日も、秋桜が風に揺れる。