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第126話 シング・ア・ソング
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
キッチンで料理をしながら、ママさんが歌を歌っている。
ほ、珍しい。
あ、そうか。
パパさん、お風呂に入っているな?
ママさんは絶対にパパさんの前では歌わない。
恥ずかしいんだって。
結構、いい声してるのにな。
オレはママさんの足元で伏せをした。
目をつぶって、ママさんの歌に耳を傾ける。
ちなみにママさんが歌っているのは、ミュージカルの曲だそうだ。
女の子だけのミュージカルらしい。
ふぅん。そんなのあるんだ。
よし、オレも一緒に歌うか。
ワ……。
その瞬間、いきなりママさんの歌が途絶えた。
パパさんが素っ裸のまま、身体を拭きながら風呂から上がってきた。
だーかーらー。
パパさん、水滴付きまくりだっての!
ちゃんと身体、拭いてから来なさいよ!
ママさんは、と見ると、知らんぷりして料理を続けている。
野生の勘か!
残念だったね、パパさん。
そして今日も、ママさんは密かに歌を歌う。