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ローライネの花嫁準備

 ミュラーとローライネの結婚が決まったことについて、直ちにリュエルミラの主要人物を集めての報告と今後の対応について話し合われた。

 参加するのはミュラーとローライネ、ミュラーの側近フェイレス、執事のクリフトン、領兵隊長のアーネスト、オーウェン、ゲオルド、行政所長サミュエルにローライネ付きのメイドのアンとメイ。


「先ず以てご成婚おめでとうございます。しかし、即断即決のミュラー様にしては随分と時間が掛かりましたね」


 いちいち一言多いのはサミュエルだ。

 嫌みのような言葉はサミュエルの戯れ言に過ぎないのでミュラーも後半部分は聞き流している。


「私もお嬢様・・いやローライネ様のご結婚を見届けられるとは、嬉しい限りですぞ。あんなに小さかったお嬢、ローライネ様が・・・クッ!」


 感激しきりなのはゲオルドだ。


「ゲオルド、いちいち言い直さなくて結構ですわよ。20年以上お嬢様と呼んでいたのですからそのままでいいですわ。ねえ、ミュラー様?」


 クスクスと笑いながらミュラーを見るローライネにミュラーは頷く。


「それは構わない、というか別に私がどうこう言う問題でもない。まあ、ゲオルドにも気を揉ませてしまったからな。領内の安定が優先だったが、次々と降って湧く問題に振り回されてそれどころではなかった。おかげでローライネを待たせることになってしまった」


 言い訳がましいミュラーにローライネを除く皆が苦笑した。


「しかし、ご成婚についてどのような形式で公表するのかは慎重に判断する必要がありますね」


 サミュエルはニヤけた表情を消して皆を見回す。

 ミュラーとローライネの結婚だけならば何ら問題はないのだが、ローライネがエストネイヤ伯爵から託された家名を継承するとなると事情が違う。

 エストネイヤ伯爵が何を狙ってその継承権をローライネに託したのかは分からないが、かつて帝国創建を支え、大公の座にありながら跡継ぎに恵まれずに一代限りで消えた家名を継承するとなればミュラーを疎ましく思う大貴族は更にミュラーを敵視するだろう。

 それ自体がエストネイヤ伯爵の狙いかと思ったが、その為だけに形式だけとはいえエストネイヤ家の上家であった家名を譲るとは思えない。


 議論の結果、サミュエルやクリフトン等からエストネイヤ伯爵に返上する選択肢が示された。


「わざわざ他の貴族の反感を買う必要もないでしょう。エストネイヤ伯爵に返上したところで何の損もありません」

「私も、家名継承により混乱を招くならば無理に継承する必要はないと思います。家名が必要ならば新たな家名を名乗るのも良いかと思います」


 しかし、ミュラーはエストネイヤ伯爵の策に乗ってみる選択を選んだ。


「2人の意見も尤もだ。エストネイヤ伯爵も私が返上するのを予想しているのかもしれないし、家名継承自体が罠の可能性もある。確かに罠を警戒して返上したところで我がリュエルミラに痛手はない。しかし、敢えて乗ってみることで得られる利益があるかもしれない。他の貴族の反感を買うといっても、そもそも私は元から反感を買いまくりだし、私が反感を買うならば、それを託した伯爵の立場も危ぶまれる筈だ。伯爵はそれを承知のうえでローライネに託したのだろうから、リスクはあってもその真意を見極める必要もある」


 ミュラーの選択をフェイレスとローライネが支持し、それならばとサミュエル等も別に反対まではしない。

 結局、今度の宮廷晩餐会の際にミュラーとローライネの結婚と家名継承を皇帝に報告することにし、それまでの間は2人の成婚は内密にすることになった。


 会議はそれで終わりになると、少なくともミュラーはそう思ったが、それまで黙っていたアンとメイが口を開いた。


「皇帝陛下への報告を優先することは分かりましたが、その後はどうなさいますか?」

「当然ながら対外的に公表することになるのでしょうが、そんなことよりも、結婚式は?」


 2人の言葉にミュラーが固まる。


(結婚式?・・・その発想は無かった)


 ポカンとしたミュラーの表情を見た皆が全てを理解した。


((あっ・・・だめだ))


 ミュラーが結婚式のこと自体を考えていなかったことを悟った全員がため息をつく。

 そんな中で空気を読んで立ち上がったのはクリフトンだ。


「分かりました。私が結婚式について取り仕切らせていただきます。宮廷晩餐会の後に領民にも公表し、その後にささやかな式を執り行いましょう」


 クリフトンに加えてアンとメイもローライネのためと名乗りを上げる。

 結局、この件に関してはミュラーは何の役にも立たないと理解した皆がローライネの晴れ舞台のために全面的に協力することを確認し、会議は終結した。


 この後、リュエルミラでは宮廷晩餐会への出席の準備とミュラーとローライネの結婚式に向けて皆が忙しくなる。

 ミュラーがリュエルミラに赴任して以来、次々と襲いかかってきた問題事とは違い、慶事に向けてのことであり、ミュラーはともかくローライネのためにと皆が一致団結した。


 そんな中、ローライネの結婚式を取り仕切る責任者であり、ミュラーの館の管理責任者でもあるクリフトンが思い出したかのように口を開く。


「そういえば、お二人がご成婚となりますと、ローライネ様のご寝室もミュラー様とご一緒になりますかな」


 当然に考えなければいけないことではあるが、皆の前でとんでもないことを言い出すクリフトン。


「いや、今暫くは・・・」

「直ぐにでもそうしましょう!私は今日からでも望むところですわ!」


 ミュラーとローライネが同時に相反する言葉を発する。

 因みにローライネの声の方がミュラーの数倍大きい。


 危うくローライネに押し切られるところだったが


「皇帝に報告するまでは今のままで」


とのミュラーの最後の足掻きが聞き入れられ、宮廷晩餐会から戻るまでは今のままにすることを許してもらうことができた。

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