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本格始動

 館に戻り、クリフトンとマデリアに頼んで捕らえた刺客を地下牢に放り込んだミュラーは執務室に戻る。

 程なくしてクリフトン達も執務室に戻ってきた。


「とりあえず地下室に収監しました。あの男、今後どうするおつもりですか?」


 クリフトンの問いにミュラーは人の悪い笑みを浮かべた。


「心当たりは幾つもあるが、私を狙った奴に対する牽制に利用するさ」

「簡単に口を割るとは思えませんが?」

「私もそんなことは期待していないよ。あの男が私の手の内にいるだけで役にたつのさ」

「と、申しますと?」

「カードゲームと同じだよ。相手方の手札にジョーカーがあると思うと不安になる。しかも、そのジョーカーが自分から相手に引かせた筈なのにな。相手の手札に何があるのか分からない状態で、その中に自分を破滅に追い込みかねないジョーカーを相手に渡したってわけだ」

「なるほど・・・」


 クリフトンは合点がいったように頷いた。

 一方でマデリアはそういった話に興味が無いのか、ただ単に口出しをしないだけなのか、黙ってミュラーの背後に控えている。


「とりあえず体調を崩しても気の毒だ。清潔な寝具と食事だけは提供してやれ。まあ、始めの2、3日は警戒して食わないだろうからパンとスープだけで良いが、きちんと3食出してやれ。空腹に負けて食うようになったら普通の食事を出してやればいい」

「かしこまりました」


 刺客の処理を終えたミュラーはクリフトンを見据えた。


「で、次の問題だが・・・」

「何かご懸念が?」

「クリフトン、お前の家族のことだ。独り身の私が言うのも何だが、やはり家族は一緒に生活するものだ」

「しかし、私はこの館を守り、ミュラー様を支えるという職務が・・・」

「それは昨日も聞いた。住み込みで働くことが譲れないならば、この館に家族を呼び寄せたらどうだ?どうせ部屋は余りまくっているのだからな。娘さんはここから仕事に通えばいい」

「いやっ、それでは・・・」

「四の五の言うな。家庭不和により同居したくないとかの理由が無いならば異論は認めん。ただでさえ考えなければならないことが山積みだ。仲間の家庭のことまで心配している暇はない!」


 有無をいわせないミュラーにクリフトンは深々と頭を下げる。


「ミュラー様のご温情に感謝いたします。お言葉に甘えまして近日中に家族を呼び寄せさせていただきます」

「うむ」


 ミュラーは満足げに頷いた。


「つきましては、一つお願いがあります」

「何だ?」

「妻をこの館の料理人としてお雇いいただけませんでしょうか?」

「料理人?」

「はい。実は妻は以前は少しは名の知れた料理人でした。私と結婚して料理人を辞めましたが、私が言うのもなんですが、料理の腕と手際の良さは健在です。ミュラー様のお役に立てると思います」

「それは願ってもないことだが、奥さんの気持ちもあるだろう?奥さん自身がそれを望むならば、私の方からお願いしよう」


 今後、地方領主として来客をもてなす機会もあるだろう。

 マデリアの料理の腕も確かだが、マデリア自身はミュラーの護衛兼専従の従者であることを望んでいるので、日常生活を含めて専属の料理人が居るのはありがたい。


ミュラーの領内運営はまだまだ前途は多難だが、少しずつ光が見えてきた。


 翌日、ミュラーは早朝から行政所長サミュエルの来訪を受けたが、2人の若い娘を連れて来たサミュエルは、すこぶる機嫌が悪く、ミュラーの顔を見るなり文句を言い始める。


「ミュラー様!刺客に襲われたなら後始末までキチンとして下さい!」

「はっ?」


 ミュラーは何を言われているのか理解できない。


「だから、刺客の死体を放置したままにしないでください。行政所か衛士に伝えるか、ご自分で処理して下さい!」


 どうやら昨夜の襲撃で倒した刺客の死体をそのままにしたことについて叱られているようだ。


「草原には都市の子供達も遊びに来るんです。今回は私の手の者が知らせてくれたから速やかに処理出来ましたが、今後はちゃんと知らせて下さい」


 命を狙われたのに叱られるとは理不尽な気もするが、サミュエルの言っていることも尤もだ。


「それは済まなかった。今後はちゃんと・・・って、そんなに頻繁に命を狙われてはたまらないぞ」

「そんなことは知りませんよ。私は都市の美観の話をしているのです」

「むぅ・・・。ところで、サミュエルの手の者?」

「はい、ミュラー様が狙われているようだったので、様子を探らせていました」

「おい、私が狙われているのを知っていながらその様子を探らせたって・・・。私が襲われたのを黙って見ていたのか?」

「はい。私が個人的に雇っている密偵です。何も文句を言われる筋合いはありません。彼は情報収集能力には長けていますが、戦闘能力は皆無です。それに、あの程度の刺客、ミュラー様にとってなんら脅威とはならないでしょう?」


 理不尽なことを次々とまくし立てるサミュエル。

 領主に対してもう少し敬意というものを示しても罰は当たらないと思うが、サミュエルにとってそんなものは無駄なことなのだろう。

 旗色の悪いミュラーは話題を変えることにした。


「ところで、わざわざ私に文句を言いに来たわけじゃないのだろう?用件はなんだ?」

「当たり前です。私はそんなに暇ではありません!」


 重ね重ね理不尽なサミュエル。


「ミュラー様が人手不足でお困りのようでしたから、取り急ぎ女中候補を2人連れて来ました。採用いただけるならば、2人共に本日から住み込みで働くことが可能です」

「それはありがたい」


 ミュラーはクリフトンとマデリアに2人の娘の面接を頼む。


「2人共に16歳で、どちらも農民の次女や三女で身元は確かです。口減らしの意味もあって家を出て働きたいそうです。所作については身についていませんが、私が面接した限りでは2人共器量が良く、利口な娘なのでお眼鏡にかなうと思いますよ」


 そう言ってマデリアが煎れたお茶を飲むサミュエル。

 昨日ミュラーが行政所に足を運んだ時にはお茶も出なかったのに図々しい男であるが、ミュラーは度量が狭くないので何も言わない。

 ただ、心の中で思っただけである。


 結局、クリフトンとマデリアが合格を出したので、2人共に早速働いてもらうことにした。

 残りの人材は募集を継続して、順次連れて来るとのことだ。


 領主としてはともかく、館の方は徐々に体裁が整いつつある。

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