駆除作戦発動
ミュラーが落ち着いて程なくして皆が集まった。
リュエルミラはミュラー、フェイレス、バークリー、ローライネ、行政所長サミュエル、領兵隊の各隊長は、境界線の警戒任務に出ているオーウェンを除いたアーネスト、ゲオルドに加えてドワーフ猟兵隊のマージ。
エルフォードはラルク、ソフィアに領兵隊の生き残りの士官が1名。
ラルクの側近のセレーナは重傷のために不参加だ。
ミュラー以下11名に加えてマデリアとステアも待機しているので執務室には入りきれず、謁見の間に集合したものの、当然ながら椅子も用意していないが、ミュラーは長々と話すつもりはないので何ら問題はない。
ミュラーとラルクは皆の前に立った。
「古代スライムを駆除する」
皆を前にして声を上げたミュラーの言葉にアーネストが首を傾げる。
「討伐でなく駆除、ですか?」
討伐と駆除では意味は似たようでありながら言葉の重みの違う。
アーネストの疑問にミュラーは頷く。
「ああ、駆除だ。混沌だのなんだのと大変な騒ぎになったし、エルフォードには甚大なる被害も出た。しかし、正体が分かってみれば何のことはない、自らも毒に犯されたデカいスライムだ。放っておいてもいずれ自滅するだろうが、余計な被害を広げないためにもさっさと駆除してしまう」
些末事のように話すミュラー。
「さっさと駆除してしまう、と仰るならば、その方法については目処が立っているということですか?」
バークリーの質問にミュラーは頷く。
「ああ、確かに困難ではあるが、不可能ではないし、成功すれば直ぐにケリがつく。そのためにマージ達にはバリスタを拵えてもらいたい」
「それは容易いが、数と性能や威力は?」
「数は1台でいいが、万が一のトラブルに備え、予備を含めて2台。射程100メートル程度で精密射撃ができるもの。移動式で、装甲馬車に設置してもらいたい」
「それならば既存の物を改良して直ぐにでも用意できる」
ミュラーの突然の要求だが、マージは力強く頷いた。
続いてミュラーはサミュエルを見る。
「冒険者ギルドを通して火炎系の魔法を使える魔術師を集めて欲しい。ただ、後始末に必要なだけだから大した報酬は出せない。1人頭2千レトだ。冒険者の等級は問わないから小遣い稼ぎをしたい奴は集まれ、と伝えてくれ」
「かしこまりました。直ちに集めましょう」
一礼したサミュエルは冒険者ギルドに向った。
ミュラーは再び皆を前に古代スライム駆除の手順について説明したが、それは確かに討伐よりは駆除という方が相応しいものだ。
「今回の駆除作戦に然したる戦力は必要ない。基本的にはマージ達ドワーフ猟兵隊と後始末の魔術師達で事足りるが、念のためにアーネストの中隊も予備戦力として参加する。予定通りに運べば損害が生じることはないが、エルフォード領兵は復興に必要だから本作戦には投入しない。その代わり、本作戦はエルフォード領主代行のラルク・エルフォードの指揮下と責任の下で行う」
事前のラルクとの打ち合わせでも伝えていなかった計画。
当然ながらラルクは驚きの表情を見せる。
「ちょっと待ってください!作戦の指揮なんて僕には無理です」
縋るように訴えるラルクだが、ミュラーは首を縦に振らない。
「これはエルフォードの問題だ。自領の問題は自分で責任を持って片付けろ。とはいえ、損害が大きいエルフォード領兵では荷が重いから我がリュエルミラの部隊を派遣するし、私もリュエルミラの指揮官として同行するが、私も含めてリュエルミラ部隊はラルクの指揮下に入る。それが無理だと言うならば部隊は派遣しない。古代スライムが自滅するのを待つのも1つの手だ。そちらの手を選ぶならば受け入れた避難民について最大限の支援を約束しよう。どちらを選んでも私は構わない」
「そんな・・・」
ラルクは救いを求めるように姉のソフィアを見るが、ソフィアの目はラルクをじっと見据えるのみだ。
今、この場におけるエルフォードの代表はラルクであり、ソフィアではない。
故にソフィアはラルクに対して何も言わない、言うべきではないのだ。
「・・・分かりました。領民だけでなく、領地を守るのも領主の責務です。これ以上被害を広げるわけにはいきません。ミュラー様を含めてリュエルミラの部隊をお借りします。準備でき次第エルフォードに向けて出発、古代スライム駆除作戦を発動します」
こうしてラルク・エルフォードを総指揮官とした古代スライム駆除作戦の決行が決まった。
ラルクの決断から2日後、主力となるドワーフ猟兵の準備と調整が終了した駆除部隊はエルフォードに向けて出発する。
総指揮を執るラルクを先頭にミュラー達リュエルミラ部隊が続く。
ラルクには護衛のエルフォード領兵2名が付き従うが、その1人はエルフォードの旗を掲げている。
ラルクの心境は差し置いて、その凛々しい姿はエルフォード領から避難した民の希望だ。
そんなラルク達を見送るソフィアとローライネ。
「大丈夫でしょうか・・・」
不安を隠せないソフィアにローライネは微笑みを見せる。
「大丈夫ですとも。ミュラー様はああ見えてとても慎重な方で、物事を楽観視したりはしません。そのミュラー様が大丈夫と判断してラルクさんに指揮を任せたのです。何も心配することはありませんわ」
「そう・・・ですね」
「それに、今回の騒動が収まった後、ラルクさんと貴女にはエルフォードの復興という重大な仕事が残っています。それをスムーズに進めるため、復興の第一歩としてラルクさんの手で片づけなければいけませんのよ」
ローライネの言葉に頷いたソフィアは弟の無事と領主としての成長を祈った。