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闇夜の刺客

 ミュラーとマデリアは目に止まった大衆食堂に入った。


「私は店の外で待っています」


というマデリアに


「私に大衆食堂で1人で食事をしろと?寂しい男だと思われてしまうだろう」

 

と言いつけて無理にでも同席させる。

 帝国軍の制服のミュラーとメイド服のマデリアという異様な組み合わせは店員や他の客の注目を集めるが、ミュラーはまだ新しい領主であることは知られていないため、もの珍しさで注目さただけで、皆も直ぐに興味を失ったようだ。

 軍の将校が従者を連れて旅の途中に立ち寄った、とでも思われているのだろう。


 それよりも気になるのは、店内に活気が無く、夕食時であるのに空席も目立つ。

 食事をしている客も無言か、渋い顔で会話をしている程度だ。

 領民達の経済的困窮は深刻な状態らしい。


「早いところ経済と領民の生活を立て直さなければならないな・・・」

「・・・・」

 

 ミュラーは食事を食べながら呟くが、対面に座っているマデリアは何も言わない。

 メイドとしての分を弁えているようだ。

 クリフトンといい、マデリアといい、優秀なのはいいが、とにかく堅苦しい。


「一刻も早く、側近が必要だ・・・」


 ミュラーはため息をついた。

 着任してまだ2日、ため息ばかりである。


「ミュラー様・・・」

「ん?」


 ミュラーの対面で食事を取っていたマデリアが声を顰めながら話しかけてきた。


「刺客と思われる者がいます」


 マデリアの警告にもミュラーは表情を変えずに食事を続ける。


「知っているよ。店の中に2人。入口の右側の席だろう?他に、行政所を出てから私達をつけていた奴が3人いたから全部で5人だな」

「お気付きでしたか」

「当然だ。私は長年に渡ってあらゆる戦いを生き抜いてきた。危険察知能力はマデリアには負けないよ。どちらにせよ、連中は人混みの中では仕掛けるつもりはなさそうだ。食事の邪魔をしないならばありがたい。放っておこう」


 刺客の存在に気付いていながら気にも留める様子もないミュラーにマデリアは珍しくキョトンとした表情を浮かべる。

 普段は無表情なマデリアのその様子が面白い。 


「お見逸れしました」

「マデリアにも実力はあるだろうが、私には実戦に裏打ちされた経験があるのだよ。まあ、奴等も私達を無事に帰すつもりはないだろう。都市を外れた草原辺りかな?」


 襲撃地点を予測しながらも食事の手を止めないミュラー。

 マデリアも無言に戻り食事を再開した。

 結局、ミュラーとマデリアは命を狙われているにも関わらず、最後まで平然と食事を続けたのである。


 何事もなく食事を終えて店を出た2人は館に向かって歩き出した。

 店にいた刺客も姿を消しているが、何処かでミュラー達の様子を窺っているのだろう。

 それでもミュラー達は後ろを振り返りもせずに歩き、都市を外れて丘の上の館へと道が続く草原に出た。


 ビンッ


弦を弾く音と共にミュラーを狙った矢が飛んできた。


「ミュラー様っ」


 マデリアはナイフで矢を払うと同時に矢が飛来した方向にスカートの下から抜き出した投げナイフを投擲する。


「・・グッ!」


 草むらの中からくぐもった声。


「仕留めたか?」

「はい、投げたのは毒の刃です。それが喉に当たりました。直ぐに死にます」


 ミュラーは頷くと、ゆっくりと腰の剣を抜いた。

 

「私の従者は矢でも投擲武器でも叩き落としてくれる。遠距離からの攻撃は無駄だぞ!」


 暗闇に向かって呼びかけたミュラーの声に現れた影は4つ。

 短い曲剣や短剣等を構えて2人を取り囲む。

 4人全てがマデリアを警戒している。


「私は脅威ではなく、標的か。ナメられたものだな」

「ミュラー様、私にお任せください」


 ミュラーの背後を守るマデリアが囁く。


「不要だよ。この程度の連中に遅れを取る私ではない」


 わざと刺客に聞こえるように、馬鹿にしたように話すミュラー。

 3人の切っ先がミュラーに向いた。

 残りの1人はマデリアの牽制だろう。


「マデリア、其奴は殺すなよ」


 振り向きもせずにマデリアに対峙する刺客を指差したミュラーは自らの右手にいる刺客に向かって無造作に歩き出した。

 ミュラーが背を向けた左手側にいた刺客とマデリアを牽制する刺客が同時に動く。

 ミュラーの背後から刺客が飛び掛かるが、ミュラーは予想外の動きを見せた。

 背後からの攻撃を受け止めるでも、右手の刺客に反撃するでもない。

 突如として横に跳んで駆け出し、もう1人の刺客に斬り掛かる。

 大上段から剣を振り下ろすと見せかけ、それを受けようとした刺客の短剣の直前で剣の軌道を変えて横薙ぎに剣を振り抜いた。

 ミュラーの反りの入った片刃の剣はサーベルよりも刀身が厚く、重厚な作りでありながらその切れ味は鋭い。

 刺客の胴体を分断すると、その剣の勢いのまま身を翻して後を追ってきていた刺客の胴体を逆袈裟に斬り捨てた。

 1手で2人を始末したミュラーは残る1人も見逃さない。

 一気に間合いを詰めて斜め上からその首を目掛けて剣を振り下ろす。

 刺客の対処は間に合わない。

 その刃が刺客の首を切り飛ばす直前、ミュラーは刃を反して剣の峰でその首を打ち付ける。

 対応が間に合わずに完全に斬られたと思い込んだことと、強烈な打撃により刺客は気を失って倒れた。

 

 最初の1手からものの数秒、ミュラーはあっさりと2人を切り捨て、1人を無力化した。


 3人を仕留めたミュラーが振り返れば、マデリアの前にもう1人の刺客が跪いている。


「終わったか?」

「痺れの刃を使用しましたので死ぬことはありません。2、3刻は身動きも出来ませんが、薬が強すぎたので話すこともできないでしょう。申し訳ありません。これでは尋問もできません」

 

 謝罪するマデリアだが、ミュラーにしてみれば十分な結果だ。


「別に謝罪する必要はない。私は此奴を尋問するつもりはない。聞いたところでどうせ何も話はしないよ」


 そう言いながら最後の刺客を見下ろすミュラー。


「私のことを甘く見過ぎだ。軍の大隊長だったから後方で指揮ばかりだったと勝手に思い込んだのか?ならば言っておく、私の大隊は指揮官先頭が常だ。実戦経験もそうだが、軍団内の闘技大会で3年連続で優勝して他の者の士気に関わるという理由で出場禁止になったのは伊達ではないぞ。5人や10人の刺客で私を殺せると思うな」


 用件を伝えたミュラーが振り向くと、その間にマデリアは気を失っている刺客をベルトを使って拘束し、最初に仕留めた男の首から投げナイフを回収していた。


 いくら従者とはいえ、拘束した男をマデリアに運べとは言えないので、ミュラーが肩に担いで歩き出す。


「ミュラー様、もう1人はどうするのですか?」

「放っておいても動けるようになったら自分で依頼主の下に報告に行くさ。あの男が5人の頭目だ。生き残った以上は依頼の成否に限らず報告する義務がある筈だ」

「あの男が頭目ですか?」

「ああ、だからこそマデリアの牽制という一番危険だと判断した役割を引き受けたのだろう。だとすれば、受けた仕事の最低限の責任は果たすだろう。私を狙ったのが誰だかは知らないが、メッセンジャーとして牽制の役にくらいは立って貰おう」


 相変わらず飄々と話すミュラー。

 長く戦場にいて生死の境を駆け抜けてきたミュラーはこの程度のことは大事とは思っていない。

 そんなミュラーを見てマデリアは自分がまだまだ未熟であることを実感した。


 こうして、闇夜の襲撃はミュラーの食後の腹ごなし程度にあっさりと幕を閉じたのである。

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