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ミュラーの休日1

 ロトリアとの紛争処理も終わり、リュエルミラに平穏な日々が流れていたある日、ローライネとフェイレスという珍しい取り合わせの2人がお茶を飲みながら午後の一時を過ごしていた。


「フェイレス様、ご相談がありますの」

「ローライネ様、私を呼ぶのに敬称は不要です。ローライネ様は『仮』にも主様の正室『予定』なのですから、主様の臣下たる私のことはフェイレスとお呼びください」

「むっ(何か棘があり言い方ですわね)、まあいいですわ。フェイレス、相談というのは、このところミュラー様が全く休んでいません。そのことをミュラー様に伝えたら、あのお方、何て言ったと思います?」

「必要な睡眠時間は確保している」

「そうですの!ミュラー様ったら、休日という概念が無いのかしら?」

「確かに、主様は放っておくと何時までも休みなく働き続けてしまいます。私が仕事量を調整して休日を設定してもご自分で仕事を見つけたり、自らの鍛錬に費やしたりしています。しかも、普段は規則正しい生活で、ご自分でも仰るとおり、必要な睡眠時間は確保しているので体調的に問題は無いようです」

「体調以前に精神衛生上の問題だと思いますわ」

(しかも、忙しく働いていて私に向き合っていただける時間も少なくて私も寂しいですし・・・)


 そこまで話してローライネはふと思い出す。


「そういえば、ミュラー様はご自分のことは棚に上げて部下には休日をしっかりと取らせていますわよね?私も週に2日はミュラー様のお世話を休まされていますし。でも、ミュラー様の側近たるフェイレスは何時休んでいますの?」

「私は特に休日というものは必要ありません。ミュラー様のように睡眠時間は確保していますし、自分の仕事量は上手く調整して休息時間を確しています」

「その割に休んでいる姿を見たことがありませんわね?」

「はい、休息期間を利用して次の仕事の準備を整えたり、研究に費やしていますから、端から見ると休んでいるようには見えないかもしれませんね」

 

 ローライネは思わず仰け反った。


(あっ、ダメだこの人。それは休息とは言いませんわ。こういうのを似た者主従というのかしら?)


 そもそも相談する相手を間違えていたローライネ。

 ミュラーもフェイレスも基本的に自分自身のことには無頓着で、その辺についてはローライネの思う通り似た者主従なのだ。


 2人のお茶の給仕をしていたステアが呆れたようにため息をつく。


「ミュラー様が休まないというならぱ無理やりに休んでいただけばいいのではありませんか?例えば、視察と称してのんびりとピクニックにでも連れ出せばいいのではありません?」

 

 ステアの提案にローライネとフェイレスは顔を見合わせた。


 かくしてクリフトン、バークリー等を巻き込んだミュラーの休日大作戦の計画が秘密裏に進められ、いざ決行の日を迎えたのである。

 ミュラーが推進している稲作の新たな開墾予定地と水利の視察と称した領都の北方にある湖までのピクニック。

 ミュラーに同行するのはフェイレスとステア、そしてゆくゆくはミュラーの仕事の代行をする可能性があるということでローライネと、ローライネの護衛のゲオルド、そして現地で合流する予定の協力者が数人だ。

 当のミュラーは休息の為のピクニックと言われれば「必要ない」と答えるだろうが、フェイレスから視察だと説明されているので何の疑問も抱いていない。


 当日は朝から雲一つ無い絶好の視察日和となった。

 目的地まではのんびり歩いても3刻も掛からないので徒歩で向かう。

 ミュラーは最早普段着と化している軍略装に剣を帯びているが、名目上は視察なので仕方ない。

 フェイレスも普段と同じローブだし、ステアはメイド服、ゲオルドに至っては胸甲を身に着けており、背中にエマの作ったお弁当にローライネ作の焼き菓子にお茶を煎れる機材が入った荷物を背負っている。

 唯一普段と違うのはローライネだが、ドレス姿ではなく動きやすいワンピースに日除けの帽子を被っており、普段の装いとは違うが気合の入った服装だ。


 目的地の道すがら稲作の開墾予定地を実際に視察するが、そんなものは1刻と掛からずに終わる。

 それよりも、開墾地まで用水路を引くための水源となる湖の方が重要だ。

 早朝に館を出発したミュラー達一行は昼前には目的の湖に到着した。

 当初の予定通り湖の視察をしながら湖畔で昼食を取ることにし、ステアはローライネとゲオルドの手を借りてその準備を進めている。


「この湖は北方の山々から水が流れ込むだけでなく、この湖自体も湖底から水が湧き出していて水源として豊富な水量を有しています。また、魚や水草等の水産資源も豊富です。この湖から開墾予定地まで新たな用水路を引いても環境に大きな影響はありません」 


 フェイレスから説明を受けるミュラー。


「あれ~っ!おじさん何してるの?」


 聞き慣れた声に振り返って見れば、そこにいたのは釣り竿を抱えたパットを始めとした孤児院の子供等とパット達を引率してきた孤児院のシスターだった。

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