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リュエルミラ商談2

「私の名はロヴ・ランバルト。ランバルト商会の会長を務めております」

 

 隙の無い礼をしたランバルト。


「此奴はなかなかに悪党で、あこぎな商売をする商人だ。エリザベート殿も油断しないほうがいい」


 ミュラーの説明にランバルトは心外そうなふりをする。


「私以上の悪党のミュラー様に言われては私も立つ瀬がありませんよ」


 互いにあくどい笑みを浮かべるミュラーとランバルトを見てエリザベートは思わず吹き出した。


「クスクスクス。ミュラー様、本日この席でランバルトさんを紹介していただけるということは、何かを期待してよろしいのかしら?」


 エリザベートの質問にミュラーは首を傾げる。


「期待されても私には何も出来ませんよ」


 惚けるミュラーの横腹を隣に座るローライネが肘で小突く。


「もうっ!ミュラー様、意地悪が過ぎますわ」


 ローライネに嗜められたミュラーは肩を竦めた。


「意地悪も何も、私に出来るのはエリザベート殿にランバルトを紹介することだけだ。後はランバルトの仕事だよ」

 

 そう言ったミュラーに促されてランバルトは懐から1枚の書類を取り出した。


「私は商人としてお客様を第一に考えて『良き商品を必要な方に届ける』をモットーに地道に商売に励み、商会の規模を拡大してきました。その功績と、お役人との信頼を結ぶ日頃の努力から広域商人として認められております」


 ランバルトが示したのは広域商人の証明書であり、相当な実績と営業基盤がなければ得ることが出来ないもので、この証明書があれば世界中で商取引が出来るという全ての商人の垂涎の物だ。

 その証明書を見たエリザベートの心臓が高鳴る。


「初めまして、ランバルトさん。今日はお互いの利益となるお話しが聞けるのかしら?」


 エリザベートは平静を保ちながらランバルトに挨拶をした。

 ミュラーが悪党だと言うのだからこのランバルトという商人は信用出来る悪党なのだろう。

 だからこそ焦りを見せては容赦なく足下を見られる。

 そんなエリザベートの心境も見抜かれているだろうが、それでもロトリア領主として余裕を失ってはいけない。


「実は私共の商会はとあるお客様から大量の商品を買い取らされ、在庫処理に困っているのです」


 そう言ってランバルトは商品目録をエリザベートに見せる。

 記載されていたのは小麦等の穀物だ。


「どれ程の在庫がありますの?」

「はい、大型馬車で10台分程ですか、でも、これを売りつけたお客様は今後も大量の穀物等の食料を買い取れ、と無茶を申しておりまして、悩ましいところです」


 横目でミュラーを見ながら惚けるランバルトの一方で笑顔のままのエリザベートの視線が鋭くなる。

 ミュラーとの会談の結果よりもこのランバルトを逃さないことの方が重要だ。


「お値段は如何ほど?」


 エリザベートの質問にランバルトはニヤリと笑う。


「お話しが早くて助かります」


 ランバルトは懐から算盤を取り出して弾いてその値をエリザベートに見せる。


「これは小麦大袋10袋あたりの単価になります。保存の魔法が仕掛けられた袋込みの値段です」


 示された価格は確かに割高だが、法外という程ではない。

 言わば法外ギリギリといったところだ。


「但し、これはあくまでも商品単価であり、ロトリアまでお届けとなると・・・この程度の輸送料が加わります。因みに、輸送料は商品単価に上乗せではなく、輸送商隊の規模によって金額が異なります」


 再び算盤を弾くランバルト。

 示された価格は更に割高だが、前領主と取引していた価格に比べれば遥かに安い。


「この値段で大型馬車10台分の穀物を売ってもらえて、ロトリアまで運んでくださるというわけね?」


 エリザベートはこの商談を他所に流すつもりはない。

 

「それはもう、我がランバルト商会の信頼すべき武装商隊が責任を持って世界中の何処にでもお届けします。その保証を含めての料金設定です。今後も定期的にお取引いただけるならば、決して高過ぎるというものではなく、適正価格であるとご理解いただけるかと存じますが?」

「今後も、と言うからには今後もある程度の量の食料を仕入れることが出来るということかしら?」

「ええ、私に商品を売りつけるそのお客様は商人泣かせの厳しい方でして、小麦等の従来品だけでなく、他では流通していない、売れるかどうかも分からない新たな穀物までを買い取れ、と申しておりまして、私も頭を痛めているところです」


 惚けながら話すランバルトと、そっぽを向いているミュラー。

 ここまでくると最早茶番であるが、この茶番劇をミュラーもランバルトも大真面目で演じているし、その必要がある。

 というのも、敵対国と取引を禁じている帝国法についてリュエルミラ領主としてミュラーは破るつもりはない。

 しかし、ミュラーが広域商人に売りつけた商品を広域商人が他国に売ること自体は法に触れない。

 つまり、ミュラーとランバルト商会の取引と、ランバルト商会とエリザベートの取引は別個のものであることを明らかにしておく必要があるというわけだ。


 ミュラーはランバルト商会に穀物を売りつけて利益を得て、エリザベートは飢えに苦しむ領民のための食料をランバルト商会から購入できる。

 そして、間に入るランバルト商会はリュエルミラ地方における穀物市場の売買ルートを確立し、ついでにロトリアでの鉱物産業でも新たな市場開拓を狙う。

 リュエルミラ、ロトリア、ランバルト商会の3者にそれぞれ利益がある取引だ。


 リュエルミラで新たに始まった稲作について、軌道に乗って安定した収穫が見込めれば将来的には収穫された米を主力にして他の商人にも市場を解放するということだが、ランバルト商会としてはその時までは市場を独占し、市場解放後も後発の商会が付け入る隙がない程に地盤を固めておく目論みがある。


「とても興味深い商談だわ。ランバルトさん、とりあえず今ある在庫は全て私が買い取らせていただきます。我がロトリアに納品してください。その際には私の方からも取引の提案がありますので、ランバルトさん自らがおいでくださいね」


 エリザベートの申し出にランバルトは深々と頭を下げた。


「かしこまりました。早速手配致します。エリザベート様がロトリアに帰着してそうお待たせすることなく私自ら納品にお窺いします」


 リュエルミラとロトリアはそれぞれ多大なる成果を挙げ、エリザベート等はロトリアへの帰路についたのである。


 こうしてリュエルミラとロトリア間の紛争は禍根を残すことなく決着した。

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