死霊術
(肉体を失った道化よ。残された魂を燃やし、生と死の狭間の門を開け)
ミュラーの脳裏にフェイの声が届いた瞬間
ケタケタケタケタッ!!
異様な笑い声と共に5つの影が躍り込んできた。
カボチャの頭に黒いマント、炎を纏った大きな鎌を持って不気味な笑い声を上げながら飛び回っている。
ジャック・オー・ランタン、その見かけからは想像もつかないが人の魂が燃える火の玉に姿を変えた歴としたアンデッドである。
「クククッ、ここにきてアンデッドの増援ですか。敵か味方か・・・」
白々しく笑うバークリー。
敵か味方かなど警戒するまでもない。
躍り込んできた5体のジャック・オー・ランタンは炎に包まれた鎌を振りかざし、ミュラー達の背後に迫る鬼地蜘蛛に襲い掛かった。
(朽ち果てつも誇りを失わじ騎士の骸よ、今一度その手に槍を掲げ、生と死の狭間の門を開け)
・・・ガシャガシャガシャッ!
続けて聞こえてきたのは金属音にまみれた乾いた足音。
洞窟側から駆け込んで来たのは槍を構えたスケルトンが数体。
鎧を身に纏ったスケルトンナイト達がミュラー達の前に群がる鬼地蜘蛛に槍を突き立てて活路を切り開いた。
「道が開けたっ、脱出するぞ!」
バークリーが担ぐ娘をひったくるとミュラーは片手で剣を振るいながら走り出す。
「いやはや、とんでもない職場だ・・・」
ぼやきながらミュラーの後に続くバークリー。
それでもアンデッドを避けながら風魔法での援護を始めた。
ミュラーとバークリーは鬼地蜘蛛の巣と化していた広間を抜け出し、出口にへと通じる洞窟へと向かって駆け抜ける。
ミュラー達が広間から脱したその直後、広間から凄まじいまでの熱気が噴き出してきた。
「うわっちっ!ミュラー様、あのアンデッド達、鬼地蜘蛛を巣ごと焼き払ってしまいましたよ」
「ああ、助けられる被害者はもういなかったんだろう。流石に蟲に喰われた亡骸だと回収して家族に引き渡すわけにもいかないしな。だからあれでいいんだ」
広間の巣を一掃したとはいえ、洞窟のそこかしこには未だに多くの鬼地蜘蛛が潜んでおり、それらを排除しながら走る。
ふと気付けばジャック・オー・ランタン達が追いついてきて、ミュラー達を護るように飛び、スケルトンナイトが殿を固めていた。
「アンデッドに護られるというのも奇妙な気持ちですね。しかし、流石はミュラー様が見込んだ側近ですね。私などとは桁違いの能力です」
「フェイとお前の力は比べる質のものではない。フェイにはフェイの能力、バークリーにはバークリーの能力があり、どちらも私には必要な力だ。2人とも給料分はしっかりと働いてもらうぞ!」
アンデッド達に護られているため軽口を叩く余裕も出てきた2人。
「大隊長!早くっ」
「領主様、こっちだ!」
そして、先に脱出したオーウェンとグースが引き返してきて退路を確保しながら待ち受けている。
最早周囲を気にする必要もない。
ミュラー達は脇目も振らずに洞窟を駆け抜けて一気に脱出し、それと同時にミュラー達を護っていたアンデッド達は姿を消した。
そして、洞窟の外でミュラーを待っていたのは杖を構えたフェイだ。
ミュラーは担いでいた赤毛の娘をグースに任せるとフェイの前に立つ。
術を解いたフェイはミュラーを見上げた。
「主様とあの魔術師ならば切り抜けることも造作もなかったでしょうが、被害者救出という目的のため、差し出がましいとは思いましたが、手出しさせていただきました」
「いや、助かった。ありがとう」
礼を述べるミュラーの表情をまじまじと観察するフェイ。
「私の術を目の当たりにしても驚いた様子もありませんね。やはり、主様は私の力を見抜いておいででしたか?」
フェイの問にミュラーは肩を竦める。
「いや、前にも言ったが、何かの力を隠しているとは思ってはいたが、それが何であるかは知らなかった」
惚けているのか、本心なのか、掴み所のないミュラーにフェイは薄い笑みを浮かべた。
「私が考えていたよりも随分と早くなりましたが、これを機会に真実を、私の全てを知っていただきたく思います」
「フェイが話すべきだと言うのならば聞こう」
フェイはミュラーの目を真っ直ぐに見た。
「私は主様に対して名も、能力も、偽っていました。今、主様に真実を話します。・・・私の名はフェイレス、死霊術師です」