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救出戦

 4人は真正面から斬り込んだ。

 バークリーが退路を確保し、ミュラー、オーウェン、グースが突入する。

 ミュラーとオーウェンが剣を振るい、グースが弩を放ちながら続く。

 グースの弩はかなりの張力で並の者ならば矢を番えるだけでも一苦労な代物だが、グースにかかると何の問題もないようで、信じられないような連射速度で次々と矢を放ち、鬼地蜘蛛に撃ち込んでいる。


 そんな中で厄介なのは天井やそこかしこから飛び掛かってくる雄の鬼地蜘蛛だ。

 小さな体で数に任せて襲い掛かってくるが、後方で援護しているバークリーの風魔法で吹き飛ばされたり、切り裂かれたりしてミュラー達に取り付くことが出来ない。

 そうなれば、相手にするのは体の大きい雌の鬼地蜘蛛だが、手強いとはいえ、刃がとおり、物理攻撃が有効だと分かっていれば然したる問題はない。

 それぞれ軍人や冒険者として蓄えた実戦経験を基に冷静に、的確に鬼地蜘蛛を倒しながら前進する。


 やがて、救出対象の1人である神官の近くに辿り着いた。

 グースが腰の手斧を抜いて神官に絡む糸を払う。


「クラーラッ!無事か?しっかりしろっ!」


 グースの声に答えないクラーラ。


「グースッ!心配や治療は後だ!神官を連れて先に後退しろ!」


 振り向かずに更に前に斬り込んでいくミュラーの声にグースは即座に反応した。

 目の前に迫る鬼地蜘蛛の頭を手斧で叩き落とし、クラーラを担ぎ上げながら付近にいる鬼地蜘蛛に目を向けるグース。


「しかし、不意を突かれたとはいえ、この程度の敵にやられたとはなっ!」

「敵の強弱でなく、我々が置かれた状況を把握しろ!数で押し潰されるぞ。今は被害者を速攻で救出、他には目もくれずに脱兎の如く退却だ!」

「おうともさっ!」


 クラーラを担いだグースは片手で器用に弩を操りながら後退を開始する。


 その間にオーウェンが大剣で鬼地蜘蛛を叩き潰しながら剣士、ジャクリーンの下にたどり着いた。


「大隊長!先に後退します」


 ジャクリーンを肩に担いで後方に向かい駆け出すオーウェン。


 その時、風魔法で援護していたバークリーが叫んだ。


「ミュラー様っ!風だけでは捌ききれません。炎を使います。お気を付けください」

「構わん!やれっ!」


 バークリーの炎がミュラーの頭上の雄蜘蛛を焼き払う。

 炎に包まれた蜘蛛達がミュラーに降り注ぐが、気にせずに最後の被害者に向けて跳躍するミュラー。

 着地と同時に赤毛の娘を拘束している糸を斬り払い、娘を抱え上げて踵を返した。


 グースとオーウェンはそれぞれクラーラとジャクリーンを担いで洞窟の外に向かって振り返ることなく駆けてゆく。


「ミュラー様、急いでっ!」


 後方にいた筈のバークリーが前進してきてミュラーの退路を確保している。

 そんな中、何処から湧いて出たのか、ミュラーとバークリーの周囲は鬼地蜘蛛で埋め尽くされてしまう。

 ここまで包囲されると下手に炎の魔法を使うとミュラー達も炎に包まれる可能性がある。

 そうなるとミュラー達はともかく、麻痺毒で意識の無い娘が危険だ。


 ミュラーが蜘蛛の群れを斬り払いながら後退してきたのを見計らってバークリーは出口に向かって竜巻を発生させて退路を切り開く。


「よし、逃げるぞ!」


 娘を抱えたミュラーが前に立ち、脱出しようとしたその時、バークリーの足がもつれて転倒した。

 その足には蜘蛛の糸が絡んでいる。

 思わず足を止めて振り返るミュラー。


「バークリーッ!」

「私に構わずに行ってください!」


 バークリーが止めるのも聞かずに駆け寄ってバークリーの足に絡む糸を払う。


「見捨てて行けるか!雇い入れていきなり公務災害で死なせるわけにいくかっ!我がリュエルミラはそこまでブラックな職場ではないぞ!」


 言いながらバークリーを立ち上がらせるが、その間にミュラー達は鬼地蜘蛛に完全に包囲されてしまった。


「着任早々に絶体絶命の危機っていうのも、十分にブラックな職場だと思いますけどね・・・」


 呆れたように呟くバークリー。


「そう言うな。生きて帰れたら危険手当を弾んでやるよ」

「それもこれも生き残れたら、ですね」

「お前だけ生き残っても駄目だぞ。危険手当を払うのは私だからな」

「ふっ、やっぱりブラックだ」


 危機的な状況下で軽口を叩くミュラーとバークリー。

 ミュラーは抱えている娘をバークリーに託した。

 

「出口に向かう通路まで約10メートルというところか・・・。大した距離じゃないのに遥か遠くに見えるな」

「そうは言っても進まなければ埒が明きません。後方は私が引き受けます。ミュラー様は前だけに集中してください」


 ミュラーは頷く。


「私とバークリーだけならばこの危機も気楽で不利な状況を楽しめるんだかな。被害者を巻き込むわけにはいかない。一気に押し通るぞ!」

「私だって不利な状況を楽しむなんて無理ですよ。行きましょう!」


 ミュラーは目の前を埋め尽くす鬼地蜘蛛の群れに斬り込んだ。


 しかし、如何にミュラーが歴戦の戦士で、バークリーが優秀な魔術師とはいえ、数で押し寄せる鬼地蜘蛛相手には分が悪い。

 一進一退どころではなく、2歩進んで3歩押し戻されるといった攻防が繰り広げられる。

 バークリーは風魔法を駆使して頭上や側方、後方から鬼地蜘蛛が接近するのを防いでいるが、それにも限界がある。

 バークリーの魔力が切れたら一巻の終わりだ。

 

 ミュラーは剣だけでなく、短剣を抜き、両手で剣を振るってじりじりと前進する。


「ちっ!戦い自体は問題ないが、状況はキツいな・・・」

 

 舌打ちするミュラー。

 その時、ミュラーの手首に結んであったフェイの髪の毛が切れた。


(肉体を失った道化よ。残された魂を燃やし、生と死の狭間の門を開け)


 ミュラーは確かにフェイの声を聞いた。

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