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おっさん達の洞窟探検

 ミュラー達4人は洞窟の深部へと足を踏み入れた。


 先頭は大剣を担いだ新婚のおっさん、続くのは黒色の軍帽、軍服に剣を携えた偉そうなおっさん、3人目は灰色のローブに使い込まれた杖を持ちにやけた顔のおっさん、そして最後尾には革鎧に弩に矢を番えたドワーフのおっさん。 

 ミュラーが言ったとおり、何の華やかさも無いおっさんパーティーだ。


 おっさん達はそれぞれ立場は違えども各々の人生で蓄積してきた経験を信じて慎重に進んでゆく。


「静かですね・・・」


 先頭を進むオーウェンが呟くが、そのオーウェンを含めて誰一人として油断はしていない。

 静かであるが故に警戒し、あらゆる事態に対応できるように備えているのだ。


 その4人が同時に足を止めた。

 洞窟の奥に3人の人の顔があり、赤く光る目でこちらを見ている。

 

「鬼地蜘蛛です・・・」


 バークリーの説明のとおり、頭部を人に擬態した鬼地蜘蛛が3体だが、ミュラー達4人の注意は目の前にいる3体の鬼地蜘蛛ではなく、その周辺の側壁や天井だ。


「ちっ、そういうことかよ・・・。俺達はこんな単純な罠に引っ掛かっちまったのか!」


 そう吐き捨てるグースが睨む先、洞窟の側壁や天井に無数の小さな蜘蛛が張り付いている。


「鬼地蜘蛛の雄です。鬼地蜘蛛の狩りの主体は実はあの小さな雄の方で、体が大きく力も強い雌が囮や獲物の輸送を担っているんです」

「俺達はそれに気付かず、デカい蜘蛛に遭遇してそっちに気を取られた隙に小さな奴等にやられたというわけか!」

「はい、雄蜘蛛の麻痺毒で動きを止めて雌が捕らえる。単純で効果的な鬼地蜘蛛の狩りの方法です」


 話しながらもじりじりと後退して蜘蛛との距離を取る4人。


「結局、たまたま後方に居て雄蜘蛛に襲われなかった俺だけが助かったのか」


 悔しそうに語るグース。


「グースさんも刺されていますよ」

「えっ?俺も刺されてるの?」

「「はっ?」」


 バークリーの言葉に唖然とするグースと呆気に取られるミュラーとオーウェン。


「はい、首筋を2カ所」

「おいおいっ、大丈夫なのか?」


 バークリーに言われみれば、グースの太い首に2カ所、小さく赤黒く腫れている箇所がある。


「刺されたこと自体に気付いていない様子ですし、問題なさそうなので特に指摘もしませんでした」

「おいおいおいっ!教えてくれよ!手遅れになったらどうするんだよ!」

「大丈夫ですよ。元々致死性の低い麻痺毒ですし、グースさんの体に対して毒の量が足りなかったのでしょうね。とっくに分解されていますよ。アルコールを水のように飲んでも殆ど酔わないドワーフの特性だと思いますよ」


 興味なさそうに話すバークリーに呆れ顔の3人。

 この時はまだ脅威を目の前にしながらも軽口を叩く余裕があった。


「奥に進むにしても、とりあえずは此奴等を片付ける必要がありますね」

「そのとおりだ。助けを待っている奴がいるかも、いや絶対にいる筈だ!」


 武器を構え直して戦う気満々のオーウェンとグースとは対照的に冷めた表情のバークリーが前に出る。


「この程度の相手にやる気を出す必要もありません。焼き払ってしまいましょう」


 言いながら杖に魔力を込める。


「焼き払うって、おい」

「・・・ファイアー・トルネード!」


 ミュラーが止める間もなく炎の渦が鬼地蜘蛛を焼き払う。

 

「おいおいおいおいっ!こんな狭いところで炎撃魔法って正気か?奥には助けを待っている奴らがいるんだぜ!」


 思わず詰め寄るグースだが、バークリーは相変わらずどこ吹く風だ。


「範囲と威力は制御してあります。全く問題ありません。ここにいる個体を焼いただけですよ」


 バークリーが指を鳴らすと鬼地蜘蛛に襲い掛かった炎が一瞬で霧散した。

 後に残ったのは黒焦げの鬼地蜘蛛の死体だけ。


「さて、奥に進みましょう。とりあえず付近に潜む鬼地蜘蛛は私が引き受けます。巣の奥に入り込んだ後は私の炎撃は使えませんから、その時はミュラー様達3人の出番ですよ」


 先頭に立つバークリー。


「「「お、応っ!」」」


 後に続くおっさん3人は困惑しながらも声を上げた。


 そこから暫くはバークリーが待ち伏せしている鬼地蜘蛛を焼却しながら進んだが、いよいよ周囲の雰囲気が変わってきた。

 空間が広がりつつあり、洞窟のそこかしこに繭のような糸に包まれ、白骨化していたり、干からびてミイラ化している死体が散乱している。


「この先に鬼地蜘蛛の巣の最深部があります。奴等は意外ときれい好きなんで、餌としての用が済んだ死体はこうして外に放り出すんです。そして、最深部には奴等の糸に包まれた餌がまだあるはずです。生き残りもいるかもしれません。ここから先は私の炎は使えませんので皆さんの援護に回ります」


 そう言いながらも先頭を歩くバークリー。 

 やがて眼下に広々とした空間がある窪地に出た。

 

 そこは蜘蛛にとって過ごしやすい天国であり、捕まった人間にとって地獄の空間だった。

 麻痺毒のせいで抵抗することも、悲鳴を上げることすらも出来ずに生きたまま食われる人間達。

 その中には食われてはいないものの、虚ろな表情で糸に捕らわれている女性の姿がある。


「ジャクリーンとクラーラだ!間に合ったのか?」


 グースが思わず駆け出そうとするのをミュラーが止める。


「まだだ!バークリーの判断を待て!」


 ミュラーの言葉に頷くバークリー。


「あの神官と剣士ですね?・・・剣士の方は着衣に乱れがありませんのでまだ大丈夫。神官の方は・・・法衣が破かれていますが、悦楽の様子が見られないので、多分大丈夫でしょう。まだ産卵期でなかったのが幸いしましたか。あと、あちらにいる赤毛の娘、彼女も無事だと思います。他は・・・既に卵を産み付けられていて、あの下腹部の膨らみの様子は・・卵が孵る直前です。卵が孵る前とはいえ、手遅れです」


 バークリーが救出対象を指示する。


「くそっ!たった3人しか助けられないのかよ!」


 悔しそうなグースだが、バークリーはそのグースを冷めた目で見た。


「その3人すら救出できるかどうか分かりませんよ。見てみなさい、巨体の雌だけでも数十体、雄に至ってはどれ程いるのか、検討もつきません」


 ミュラーも頷く。


「我々にとっては救出作戦だが、奴等にとっては我々すらも巣に入り込んだ餌に過ぎないというわけか」


 極限状態に無意識に笑みが浮かぶミュラーを見てオーウェンが呆れ顔で口を開く。


「大好物の不利な状況とはいえ不謹慎ですよ」

「おっと、そうだな。とりあえず、私とオーウェン、グースで突入してバークリーが示した3人を救出する。バークリーは後方で援護だ。3人を救出したら他には目もくれずに一目散に洞窟の外に脱出。その後に戦力を整えて再突入して巣ごと焼き払う。その際には助かる望みの少ない者も可能な限り救出しよう。もしかすると助けることができるかもしれない」


 ミュラーの作戦にオーウェン、バークリー、グースは黙って頷いた。


「グースは一番手前にいる神官を救出して後退し、可能ならばバークリーと共に援護。私とオーウェンは斬り込んでオーウェンは剣士、私は赤毛の娘を救出する!・・・行くぞっ!」


 ミュラーの掛け声でおっさん達は駆け出した。

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