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新たなる企み

 ロトリア領主であるエリザベート・ロトリアがミュラーの招請に応じる旨の書簡がロトリアの使者により届けられた翌日、ミュラーはサミュエルを呼び出した。

 ミュラーがフェイの助言を受けながら立案した新規事業についてサミュエルに説明し、新たな企みの共犯にしようと企んでいるのだ。


「・・・つまり、ランバルト商会の協力を取り付ければよいのですね?」

「ああ、商会にも儲けのある話しだ、断りはしないだろう」

「確かに。しかし、これ程の規模の事業ならば、ランバルト商会だけでなく他の商人にも声を掛けてみては如何ですか?より大きな利益が得られると思いますよ」


 ミュラーの案に乗ってきたサミュエルが修正案を示すが、フェイが首を降る。


「今はまだリュエルミラにそこまでの地力がありません。当面は1つの商会のみに協力を求めます」


 ミュラーも頷く。


「ゆくゆくは事業拡大も考えているが、フェイの言うとおり我がリュエルミラにはそこまでの余力が無いし、そもそもこの計画自体が今はまだ公にできないからな。奴隷市場摘発や走竜の礼も兼ねて暫くはランバルトに甘い汁を啜らせてやる」

「まあ、ランバルト商会ならば自己の利益さえあれば口は固いですからね」


 サミュエルは納得してランバルト商会への協力要請について引き受けた。


「しかし、ミュラー様に仕えるようになってから仕事量が倍増したような気がします。前領主の方が好き勝手が出来て楽でしたね。行政所の職員達も仕事が増えて毎日目まぐるしく走り回っていますよ。まあ、活気があって良いのですがね・・・」


 冗談とも本気とも分からない様子でぼやくサミュエル。

 

「そう言うな。今回の計画が上手くいったらサミュエルだけでなく、行政所の職員の給料にも還元してやる」

「まったく・・・期待していますよ」


 サミュエルが油断したのを見てミュラーがニヤリと笑った。


「そこでだ、もう一つ相談なのだが・・・」

「面倒ごとはご免ですよ」


 サミュエルは椅子に座りながら後ずさる。


「実は、領兵の中に魔法部隊を持ちたいと思っている」

「魔法部隊ですか?」

「ああ。今後、領兵を増強するにしても、攻撃や防御、援護にと柔軟な働きが可能な魔法戦力も必要不可欠だと思ってな。小規模でもいいから部隊を新設したいのだが、人材に心当たりはないか?」


 サミュエルは横目でフェイを見ながら考え込む。


「難しいですね。有能な魔法使いは帝都の魔導省に所属していたり、皇室や有力貴族に召し抱えられているのが殆どです。冒険者にも魔法使いは多いですが、彼等は魔法使いといっても、知識とスキルに偏りがありますから、軍隊や貴族に仕える魔法使いとしては・・・ちょっと難しいかもしれません」


 サミュエルの意見は尤もである。

 一概に魔法使いといっても、冒険者として働く魔法使いと、貴族のお抱え魔法使いや軍隊の魔法部隊では求められる能力がまるで違う。

 一兵卒としてならばどちらでも問題ないが、ミュラーは魔法部隊を新設しようとしている。

 つまり、ミュラーが求めているのは魔法部隊の中核をなす人材だ。

 魔法使いならば誰でもいいというものではない。

 ミュラーは暫し考え込むと何かを思い出したかのようにサミュエルを見た。


「彼奴はどうだ?奴隷商人の一味にいた魔術師は?」

 

 突拍子もないことを言い出すミュラー。

 サミュエルは呆気に取られ、フェイは「またバカなことを言い出した」と呆れ顔だ。


「まさか、あの男を?本気ですか?」


 聞き間違えか、何かの冗談かもしれない。

 サミュエルは改めて確認するが、ミュラーは至って真剣だ。


「ああ。以前にフェイに聞いたのだが、あの魔術師はなかなかの実力の持ち主らしい。強制労働をさせるだけで魔術師の能力を遊ばせておくのも勿体ない」


 ミュラーが本気ならば、サミュエルも真剣に思案する。


「確かに、あの男は魔術師よりも上位の魔導師程度の能力はありますね。尤も、裏稼業に身を置いていたからそういった階位とは無縁ですが。強制労働といっても魔封じの枷と監視が必要で、他の者と同じ仕事がさせられないので行政所の資料室の整理等をさせています。元々が几帳面なのか、資料室が綺麗に片付きましたが、常に衛士2名が監視に当たっているので、正直持て余し気味です。ミュラー様が引き受けてくれれば助かりますが・・・やはり私は反対です」

「理由を聞こう」

「あの男は馬鹿ではありません。納得のいく条件を示せばミュラー様に従うでしょうし、そうそう裏切ることもないと思います。しかし、今後、魔法部隊を増強するために複数の魔法使いを召し抱えることを考えますと、あの男の存在が障害になるかもしれません」


 つまり、先ずあの魔術師を配下に加えたとして、後から他の魔術師を雇い入れた時に問題が生じる恐れがあるのだ。

 並の魔術師では犯罪歴のある件の魔術師の指揮下に入りたがらないだろうし、逆にあの魔術師はミュラー以外の者の命令には従わないかもしれない。


「私としてはゆくゆくは小隊規模の魔法部隊を編成したいと思っている。とりあえず奴を雇い入れてみて、私の期待どおりの能力があり、十分な働きをするならば、奴を隊長にしてもいいと考えているのだが?」

「いや、あの男の指揮下に入ることを是とする魔術師が1個小隊も集まるとは思いません。真に有力な魔法部隊を編成するつもりならば、考え直した方が良いと思います」


 どう考えてみても利益よりも不利益が上回ってしまう。

 サミュエルの意見にミュラーは再び考え込むが、諦めてはいないようだ。

 サミュエルとしては意見を述べたので、後はどうするのかミュラーが判断することであり、ミュラーの判断を無理に止めるつもりはない。


 黙り込んだ2人を見てフェイは諦めたかのようにため息をついた。


「はぁ・・・、主様のお好きなようにしてください。当面はあの男をお使いになり、魔法部隊新設の道筋を作ればいいのです。その上で魔法部隊の障害になるならば私が引き受けます」


 フェイの後押し、というか許しを受けて、ミュラーは決断した。


「よし、それではあの男を私の配下に加えようと思うのだが・・・その前に済ませておくことがある。ステアとサムを呼んでくれ」


 ミュラーはステアとサムを執務室に呼んで奴隷商人の手下だった魔術師を手下に加えようとしていることを伝える。


「・・・というわけだが、ステアとサムは奴の直接の被害者だからな。2人の意見を聞きたい。当然ながらもう二度と2人には手出しはさせない。それでも、2人が嫌ならばあの男を手下にすることを諦める」


 ミュラーの問いにステアとサムは互いに顔を見合わせた。


「あの魔法使いは俺やステアに辛い思いをさせた。だからあの魔法使いは大嫌いだ。でも俺、ミュラー様のことは大好きだ。あの魔法使いの嫌いよりも、もっともっと大好きだ。だから、俺は大丈夫だ」

「私も、あの魔術師だけでなく、奴隷商人の一味の連中は許す気にはなれません。でも、奴隷商人のおかげで私とサムはミュラー様に救っていただき、今は幸せに過ごしています。私の気持ちとして、あの魔術師を許さないままでいいのであれば、私にも異論はありません。ですので、しっかりとこき使ってやってください」


 ステアとサムは自分達の気持ちを正直に明かした上でミュラー意見を受け入れてくれた。

 

「2人とも、ありがとう」


 礼を述べるミュラーに2人は微笑みで返した。

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