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阻止掃討戦

 斥候に出した兵から間もなく敵が到達するとの報告を受けた。


「思ったより早かったな。土砂崩れの範囲が狭かったか。まあいい、後はオーウェン達に任せても大丈夫だろう」


 ミュラーは敵を迎え撃つ準備を整えている兵達を見て頷いた。

 後のことはオーウェン達に任せたので、この戦いではもうミュラーの出番はないだろう。

 走竜に乗り、フェイとマデリアを従えたミュラーは戦況を見渡せる後方に位置を取る。

 見てくれだけは偉そうにしながら後方に位置してリュエルミラ領兵部隊の指揮官としての存在感を示し、敵の判断を狂わせる意図もあるのだ。


 遂に敵の前衛部隊がリュエルミラ領兵の前に現れた。

 これまでの戦闘でその数を減らし、フェイの罠に掛かって土砂崩れに巻き込まれ、残存しているのは2個中隊程であり、その生き残りも疲労困憊の様子で悲壮感すら漂っている。

 それでも、守備を固めるオーウェンの第1中隊や後方で偉そうに構えるミュラーを見て剣を抜き、槍を構え、攻撃を仕掛けようとしている。

 リュエルミラ領兵とロトリア領兵による辺境紛争は最終局面を迎えようとしていた。


「部隊の半数を失ってはもう大隊としての機能は失われているでしょうに・・・。戦術的に考えれば壊滅として判断して後退させるべきですね。でも、それを選択しないということは、奴等は相当追い詰められているということですか?」


 ミュラーの傍らに立つアーネストが呆れたように話す。


「そうだな。だからといって手を抜く必要はないぞ。いかなる理由があろうとも非は向こうにある。しかも警告をしたのにそれに従わなかったのも向こうだ。徹底的にやって構わない」


 ミュラーの指示に頷くアーネスト。

 彼の指揮する第2中隊はこの後の作戦のために既にこの場にはいない。

 指揮官であるアーネストも中隊を追って後方に向かい姿を消す。


 前方では敵の前衛部隊がオーウェン達が展開する阻止線に衝突した。

 阻止線の兵力に対して敵の前衛部隊は未だ倍以上の数を有しているが、ミュラー大隊で鉄壁と呼ばれた中隊を指揮していたオーウェンに鍛えられた第1中隊は予めフェイが設置していた防御柵を上手く活用しつつ、敵の突撃をしっかりと受け止め、一歩も引かない戦いを展開している。

 むしろ、攻撃している側のゴルモア公国ロトリア領兵の方が必死の様子であり、攻めている筈が、逆に追い詰められているようにも見える。


 敵の突撃に対してオーウェンは決して無理をしない。

 接触面を担う兵は大盾を並べ、腰を落とした体勢の防御陣形を維持し、敵の攻撃を受け止めることに専念し、敵を討ち取ろうと功を焦るようなことはせず、ひたすらに攻撃を受け止め、敵兵の一瞬の隙を見逃さずに盾の隙間から槍を突き出す。

 無理をせず、辛抱強く守りに徹しながら徐々に、徐々に敵の戦力を削いでゆく。

 じわじわと時間の掛かる戦いだが、リュエルミラ領兵には焦りはない。

 

 そんな戦いを見守っていたミュラーはため息をついた。


「今回の件、この場での戦いよりも後始末の方が面倒そうだな」


 ミュラーの傍らにいるフェイも無言で頷く。

 オーウェンの戦いを見たミュラーは目の前で繰り広げられている戦いではなく、この辺境紛争の後のことに思いを寄せていた。


 やがて、敵の前衛部隊の後方に後続の大隊が姿を見せた。

 これで彼我の戦力差は更に開くことになる。

 現に敵の後続大隊は前衛部隊が突撃を敢行しつつも攻めあぐねている様子を見て突撃に加わる攻撃隊を前面に展開し始めた。


 その様子を見たミュラーがポツリと呟く。


「これで終わりだ」


 その瞬間、後続大隊が展開する側面の山の斜面をアーネスト達の第2中隊が滑り降りて来て、一気に敵部隊に襲い掛かった。

 後方から戦場を大きく迂回した第2中隊は敵の側面の斜面の上に出て、敵の頭上から奇襲を仕掛けたのだ。

 防御と後退を繰り返し、最終防衛線まで敵を引き込んだリュエルミラ領兵が攻勢に出た瞬間であり、この奇襲が戦局を決定づけた。


 奇襲を受けた後続大隊と、背後を取られた前衛部隊、ロトリア領兵部隊は大混乱に陥り、態勢を立て直すことも出来ずに次々と討ち減らされてゆく。

 それはミュラーが指示したとおりの徹底的な掃討戦だった。

  

 1刻にも満たない時が過ぎ、戦場に響き渡っていた剣撃と断末魔の悲鳴が止んだ時、ロトリア領兵の生き残りは30人にも満たない数にまで減らされ、国境を越えた時の2個大隊、数百人規模に比べると壊滅状態である。

 抵抗を止めて捕虜となった生き残りの兵達にも無傷な者はいない。

 グランデリカ帝国リュエルミラ領とゴルモア公国ロトリア領の辺境紛争は数の上で圧倒的に不利な状況だったリュエルミラの完全なる勝利で幕を閉じた。


 勝ち鬨を上げるリュエルミラ領兵の中でミュラーは渋い顔をしている。

 ミュラー自身が言ったとおり、これから厄介な戦後処理が待っているのだ。

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