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辺境紛争4

 ミュラー達は300メートル程後退して第2防御線に陣形を構えた。

 第2防御線は第1防御線に比べて狭隘な場所に部隊の進軍を阻むように多くの逆茂木が設置され、その逆茂木の出口付近に阻止小隊が盾を並べて敵を待ち、剣士小隊が阻止小隊の直近後方に控える。

 道が狭い分、阻止小隊の備えは3列構えと厚く、より強固だが、ミュラーの表情は険しい。


「初戦は損害無しで切り抜けたが、ここから先はそうはいかないだろうな」


 地の利があり、阻止小隊、剣士小隊共に精強であるとはいえ、数の上での敵との戦力差は大きい。

 そして何より双方が訓練された兵による戦いであり、勇者や英雄の戦いでなければ、物語や舞台劇でもない辺境の紛争だ。

 犠牲を出さずに勝利することなど無理な話しであり、ミュラー自身もそんなことは分かっている。

 部隊指揮官として、如何に損害を抑えつつ、損害を上回る戦果を挙げなければならないのだ。


 1刻も経たずに敵部隊が第2阻止線に姿を見せたが、それを見たミュラーは目を疑った。


「・・・奴等そこまでやるのか」


 ミュラー達の前に現れたのは大隊規模の敵部隊。

 それは予測済みだったのだが、その先鋒にいるのは先程ミュラー達との戦いで大打撃を受けた部隊に兵を補充した中隊だった。

 常識的に考えて損害を受けて士気も低下した部隊は後方に下げて再編し、新たな部隊を前面に出すべきだ。

 それを覆して進軍する敵の考えは明らかである。

 それは、損害など意に介せず力押しで突破しようということだ。

 

 ミュラーはフェイを見た。


「敵の前衛大隊は損害を顧みずに攻撃を仕掛けて、共倒れでも何でもいいから我々を殲滅するつもりだ。そして、後衛の大隊がリュエルミラに進軍して食料を奪うつもりだろう。おそらくだが、前衛大隊に攻撃力を集中して、後衛大隊は輸送や支援を担う編成だろう」

「そのとおりです」

「そうすると、敵は前衛大隊で勝敗を決めるつもりだろうが、前衛大隊に魔法部隊はいると思うか?」

「はい、部隊後方に5人程の魔術師がいます」


ミュラーの問いにフェイは敵の全体が見えているかのように答える。


「そうか。・・・敵の魔術師が動くタイミングが分かったら教えてくれ」

「かしこまりました」


 ミュラーは頷くと、2人の小隊長を呼んだ。


「この場で可能な限り踏みとどまろうと思ったが、そうもいかなくなった。この先は短時間の戦闘と後退を繰り返すことになる。各隊の疲労状態に気を配れ。負傷者は早めに後退させて絶対に見捨てるな。しかし、明らかな戦死者は無理して回収せず、その場に置いていく」


 2人の小隊長も自分達が置かれている状況を理解しているようで、黙って頷くとそれぞれ小隊の指揮に戻る。


 敵が突撃を開始した。

 損害を受けた中隊の生き残りが大半の中隊の突撃は統率が取れておらず、なりふり構わずバラバラに突っ込んでくる。

 しかし、半ば死兵と化した兵達の突撃をまともに受けるのは危険だ。

 先ずは敵の不意を突いて足を止める必要がある。


「剣士小隊突撃!敵の鼻っ柱を叩け!」


 ミュラーの号令で阻止小隊は盾を開き、その間から剣士小隊が飛び出した。


 予想外の反撃に元々足並みが乱れていた敵は混乱に陥った。

 先頭は逆突撃する剣士小隊を迎え撃とうとして足を止めるが、後続は突撃の足を止めず、先頭部隊に追突して多くの敵兵が味方に押し倒される。


 リュエルミラ領兵達はそんな絶好の機会を見過したりはしない。 

 倒れた敵兵を踏みつけ、剣を突き下ろし、辛うじて踏み止まった敵にも剣を振りかざす。


「よし、剣士小隊後退!阻止小隊は密集しつつ前進!」


 ほんの2、30秒程の攻勢の後に剣士小隊は身を翻して後退し、入れ替わりに盾を揃えて槍を構えた阻止小隊が前進する。

 更に数十秒の激しい衝突で完全に敵の勢いを止めた阻止小隊は隊列を組んだまま後退を開始した。


 まさにその時、フェイが叫んだ。


「主様!敵の部隊内で魔力が高まっています。魔法攻撃が来ます!」


 見れば、敵の魔術師が前線まで出て後退する阻止小隊を狙っている。


「ちっ、全隊反転し撤退!」


 先に後退していた剣士小隊はそのままミュラーの横を駆け抜けて更に後方の第3防御線に向った。

 隊列を組んで後退していた阻止小隊は一斉に振り返り、盾を背面に担ぐと脱兎の如く走り出す。


「急げっ、魔法攻撃が来るぞ!」

バチッ、バリバリッ!


 ミュラーの声を掻き消すように雷撃の音と共に撤退する阻止小隊に雷撃魔法が降り注ぎ、最後尾にいた複数の兵が犠牲になった。

 更に混乱から立ち直った一部の敵が追撃を仕掛けてくる。


 ミュラーは撤退する小隊の殿を守るように追撃する敵の前に立ち、向かってくる敵に対峙した。

 

「主様、お下がりください」

「ミュラー様、危険です」


 フェイとマデリアがミュラーを止めようとするが、ミュラーは聞き入れるつもりはない。

 攻撃時には指揮官先頭、撤退時には最後尾がミュラーの用兵の基本であり、劣勢時の退却戦はミュラーの得意とするところだ。


「仲間が撤退するまで時間を稼がせてもらうぞ」


 ミュラーは不敵に笑った。

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