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燻り

 グランデリカ帝国内でもリュエルミラから遠く離れたエストネイヤ伯爵領の領主の館のバルコニーに立つエストネイヤ伯爵は旅立ってゆく3台の馬車を見送っていた。


「さて、この贈り物にミュラー辺境伯はどう出るか・・・」


 不敵な笑みを浮かべるエストネイヤ伯爵。

 傍らには側近の魔術師が控えている。


「ミュラー辺境伯を仕留める刃となるか、絡め取る蜘蛛の糸となるか。それとも、エストネイヤ様の首を絞める縄となるか・・・。危険を伴う大きな賭けですな」

「ふふふっ、私は賭けに負けたことはないのだよ。そもそも、勝てる勝負にしかベットしないからね」


 エストネイヤ伯爵は勝利を確信した表情で遠ざかる馬車の列を見ていた。

 

 その頃、ミュラーはランバルト商会の会長であるランバルトと商談をしていた。

 奴隷市場摘発に協力した際の損失補填についての打ち合わせの席であったが、そこは商魂逞しい商人である、損失補填に加えて商談を持ちかけてきたのである。


「我が商会としましては、ミュラー様と末永いお付き合いをさせていただきたいと考えています。そこで、今回はミュラー様にとって直ぐにでも必要だと考える商品をご用意しました」

「ほう?私に一体何を売りつけようというのだ?」


 ミュラーの問いにランバルトは出されたお茶を1口飲んだ後にニヤリと笑った。


「今回は士官先を探している傭兵団をご紹介します」

「傭兵団?そんなものを雇うつもりはないぞ」

「いえ、傭兵稼業から足を洗って正式に士官したいとのことで、言わば、ミュラー様が増強している領兵の新規兵力を斡旋します、ということです」

「・・・規模は?」

「50人程、中隊には幾分足りない数です」


 ミュラーは腕組みして考え込む。

 現在のリュエルミラ領兵は1個中隊まで増強したが、早急に大隊、将来的には連隊まで増やしたいと考えている。

 しかし、現在のリュエルミラは人手不足が深刻であり、領兵ばかりを増員するわけにはゆかず、他の分野にも人材を配分しなければならないのだ。


「確かに、領兵の増強はリュエルミラの急務だが、だからといって数だけ揃えば良いってものではないぞ。多少の荒くれ者は構わんが、規律が無い無法者では駄目だ」


 ランバルトはニヤつきながら頷く。


「当然でございます。今回ご紹介する疾風の刃傭兵団は元から鋼の規律を誇る傭兵団です。この疾風の刃傭兵団はその名のとおり、疾風の如き速さが定評の傭兵団です。今のところですが、防御力に秀でたリュエルミラ領兵には直ぐにでも必要な戦力かと思います」


 編成中のリュエルミラ領兵隊の欠点を見抜いて、商品を売り込んでくるランバルト。

 サミュエルの紹介だけあって油断ならない人物であり、そのランバルトが売り込んでくる傭兵団なのだから一筋縄ではいかないだろう。

 そう考えていたミュラーはふと思いつく。


「ランバルトはさっきから私にとって直ぐに必要な戦力だと言っているな。それはつまり何かの有事が起きる・・・可能性があるということか?」


 ランバルトはより一層歪んだ笑みを見せる。


「流石です。ミュラー様、私が貴方様に売ろうとしていたもう1つの商品は情報です。ただ、こちらの商品はまだ熟しておらず、売り物にはならなかったので、傭兵団のおまけとして差し上げようと思っていたのです」

「なるほど。そうなると、その疾風の刃とかいう連中を雇い入れる必要がありそうだ。だが、直ぐに正式採用は無理だ。金は払うが当面は試用期間だ。それで問題なければリュエルミラ領兵正規部隊として編入しよう」


 ミュラーの言葉にランバルトは深く頷く。


「妥当な判断です。彼等は必ずやミュラー様のご期待に沿えることでしょう。・・・それでは、ミュラー様におまけの情報をお教えします。近々、それこそ明日にでも領内の何れかの集落が盗賊団に襲われる可能性があります」


 ミュラーは首を傾げながら傍らのフェイを見るが、フェイも同じ考えのようで無言で頷いている。


「それは本当に盗賊団か?」

「話が早くて助かります。お察しのとおりです。実動はただの盗賊団ではありますが、彼等の背後には金を払って操る者が存在します。ただ、ミュラー様は敵が多すぎますね。情報を絞り込めなかったので、商品としての価値を付加できませんでした。まあ、リュエルミラの南東地域の集落にお気を付けください」


 商談を終えたランバルトは長居することなく館を後にした。

 売り込んだ傭兵団を直ぐに呼び寄せるとのことだ。


「とはいえ、その疾風の刃とやらはまだ投入できないな」


 ランバルトが去って、ミュラーの対面に座ったフェイも同意する。


「そうですね。新規戦力を使うには不確定要素が多すぎます。さしあたり、オーウェン殿に編成済みの領兵2個小隊程度を預けて南東地域の警戒に当たっていただいた方が良いと思います」


 フェイの進言を聞いたミュラーはオーウェンを南東地域に向かわせると共に、衛士隊からも2個小隊を周辺警戒に当たらせることにした。


 そして、それから5日後、ランバルトの言ったとおりの事態が発生したが、予め襲撃に備えていたミュラーはその先手を打つことができた。

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