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奴隷市場摘発2

「合図が出ました、今です!それから、奴隷商人に従っている魔術師がいる筈です。被害者の洗脳を解くために必要ですので、必ず捕らえてください」」 


 遠眼鏡で市場の様子を窺っていたサミュエルが叫んだ。


「了解した。では、行くぞ!」


 ミュラーの号令で先ずはミュラー、フェイ、マデリアが駆け出した。

 摘発作戦の正当性を示すために領主であるミュラーの通告が必要であるためだ。

 ミュラーの走竜とフェイの五角山羊は馬よりも足が速いが、マデリアの馬も他の馬に比べて飛び切り足が速く、マデリアの馬を操る技術も相まってミュラー達に遅れずについてくる。

 ミュラー達に続いて駆け出したクラン達騎馬隊をグングン引き離し、摘発に気付いた見張りすらも抜き去って一気に天幕まで到達した。

 天幕に着くと同時にマデリアが天幕の前にいた見張りに痺れのナイフを投げつけ、更に参加者の馬車を守る御者をも無力化したため、ミュラーとフェイは奴隷商人に気付かれることなく天幕内に入り込むことが出来た。

 摘発に当たり、ミュラーはその立場と威厳を示すため戦闘用の略装でなく制服姿だが、潜入を想定していたため、軍服の上に外套を着ている。


 オークションもいよいよ大詰めなのだろう、天幕の中は熱気に包まれていた。

 舞台の上には若い男女が立たされている。

 男の方は腰布1枚でその筋骨隆々の肉体をさらけ出している。

 ミュラーの部下でも特に大柄なオーウェンよりも頭一つ大きいのではないだろうか。

 女の方は身体のラインを強調した薄布1枚を身に纏っているが、こちらも引き締まった身体だ。

 見えそうで見えない、見たければ買い取るしかない、中々の演出である。

 

「さあさあ、本日の目玉商品です。姉と弟、2人1組での販売となりますが、我が商会が自信を持って販売する極上品です。姉の方は一通りの教養も身につけており、女給にするも良し、端女にするも良し、鍛えられているため多少手荒に扱っても問題はありません。弟の方は、いささか教養に欠けますが、力仕事に良し、おもちゃにしても生半可では壊れません。姉弟共に闇試合の剣闘士としても期待できます。20万レトから始めます」


 奴隷商人の口上に従って参加が次々と値を付けて行く。


「30万!」

「40万だ!」

「45万!」

「60万」

「62万!」

「70万」


 瞬く間に値が上がる競りの中、明らかに余裕を持って値を付けている男がいる。  

 でっぷりと太っているが、その所作には隙が無い。


「73万!」

「80万」

「・・・」


 競りの勢いが止まる。


「さあ、80万レトが出ました。他にはありませんか?」


「83万だ!」

「90」

「・・・・」

「・・・・・」


 完全に決まった。

 奴隷商人が手に持ったベルを鳴らす。


「90万レト。90万レトでランバルト商会が落札です!」


 2人を落札したのはランバルト商会。

 落札した男、ランバルトは横目でミュラーを見るとニヤリと笑った。


(そういうことか。人身売買の証拠を示すと共に損失補填も期待しているということか)


 苦笑しながら肩を竦めたミュラーは行動を開始した。


「そこまでだっ!帝国では奴隷売買は重罪だ!」

 

 外套を脱ぎ捨て、制帽を被ったミュラーが鋭く一喝する。

 突然のことに会場が静まり返った。


「な、なんだ貴様は、犯罪捜査は軍人の範疇ではないぞ!」


 意表を突かれながらも精一杯の虚勢を張る奴隷商人だが、その目は周囲を見渡して逃げ道を探っている。


「私はリュエルミラ領主のミュラーだ!リュエルミラの治安を預かる責任者として貴様等全員を捕縛する。この天幕は既に包囲している。大人しく縛につけば各々の命だけは保証するが、抵抗するならば容赦はしない!」


 その場にいた全員に対して通告するミュラーだが、素直に聞くようならば奴隷商人などやっていない。

 会場に潜んでいた奴隷商人の用心棒が短剣を抜いてミュラーの正面から飛び掛かってくる。

 ミュラーを倒すためではない、ミュラーに隙を作り、主を逃がすためだ。

 しかし、そんな相手にミュラーは剣を抜こうとしないばかりか、避ける素振りも見せない。

 背後に立つフェイがミュラーの肩越しに杖を突き出す。


「ガッ!!」


 口腔内に杖を突き立てられて男が仰け反ると同時にミュラーが駆け出し、舞台上に飛び乗り、逃げ出そうとしていた奴隷商人の喉元に剣を向けた。


「もう一度だけ言う。無駄な抵抗を止めろ!貴様が生きる術はそれしかない。まだ抵抗するならば領主の権限により即決裁判で斬り捨てるぞ」


 ミュラーに睨まれた奴隷商人は腰を抜かして抵抗を止めた。

 しかし、客達の反応は別だ。

 抵抗は無意味だと諦め、ミュラーの「命だけは保証する」の言葉を信じて投降する者がいる中、ミュラーが舞台上に上がり、奴隷商人を捕らえたのを好機と我先にと外に向かって逃げ出す者も少なくない。

 投降した者はフェイの指示に従って天幕の隅に集められたが、その中にはランバルトの姿もあった。

 必死の形相でフェイに許しを請う迫真の演技を見せている。


 ミュラーもフェイも天幕の外へと逃げ出した客達を追おうとはしない。

 逃げ出そうにもマデリアやクラン達がそれぞれが乗ってきた馬車を押さえているので逃れることは不可能だ。


 加えて、包囲網は既に出来上がっている。

 

「全員を捕らえろ!逆らう者は容赦するな!」


 天幕の外から主力部隊を指揮するオーウェンの声が聞こえる。

 僅かながら剣撃の音が響いてくるが、それも直ぐに止み、やがて天幕にクランが駆け込んできた。


「報告します。逃亡や抵抗を謀った5名を斬り捨てましたが、他の者は全て捕らえました。我が方に損害はありません。また、天幕の裏手に潜んでいた奴隷商人配下の魔術師もマデリア殿が捕らえました」

 

 報告を聞いたミュラーは頷く。


 こうして奴隷市場摘発作戦は成功したが、厄介なのはこれからである。

 商品とされた人々を保護し、捕らえた奴隷商人や客の身元確認と処遇を決めなければならないのだ。

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