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摘発作戦

 ミュラーに呼び出されたサミュエルはパットと入れ替わりにやって来たが、仕事を中断させられたせいか、機嫌が悪そうだ。


「まったく、私も忙しいんですよ。ミュラー様が着任して、少しは仕事が楽になると期待していたのですが甘かったですかね・・・。前の領主の時の方がよほど好き勝手にできましたよ」


 ブツブツと愚痴を言うサミュエルだが、表情を見れば、その愚痴が本心であるらしいのが余計にたちが悪い。

 ミュラーはサミュエルの愚痴は相手にしないことにして本題に入った。


「領内で奴隷市場が開かれる可能性があるが、知っていたか?」


 ミュラーの問いにサミュエルの表情が一変する。


「いえ、知りませんでした。それはどこからの情報ですか?」

「私の子飼いの情報屋だよ」

「あの孤児院の悪ガキですか?・・・だったら間違いないでしょうね。あのガキは普段からフラフラしているせいか、領都の隅々まで詳しいですからね」

「お前に悪ガキ呼ばわりされたら怒るだろうな」

「私は悪ガキではなく、悪党ですからね。格が違いますよ」


 変な拘りを持つサミュエルにミュラーは呆れた。


「で、前の領主は奴隷商人との繋がりがあったようだが、お前はどうだったんだ?」

「心外ですね。私は行政所長として税金も納めないような商人とは付き合いはありませんよ。あれは前領主が個人的に繋がっていただけです。堅実な私はそんな危ない橋は渡りませんよ」

「何が堅実だ・・・」


 冗談のようなやりとりを真剣に行うミュラーとサミュエルをフェイが冷めた目で見ている。


「で、ミュラー様のお考えは?好き勝手をされる前に阻止しますか?」

「いや、あえて誘い込み、奴隷商人と客諸共一網打尽にする」

「それは、また敵が増えますよ。奴隷商人はともかく、顧客は金持ちばかり、中には貴族もいますからね。客までも一網打尽にするとなると、客と裏で繋がっている連中をも敵に回しますし、捕縛すれば色々と圧力も掛かりますよ」


 サミュエルの意見にミュラーは表情を変えない。


「そんな連中とは良好な関係を築くつもりはないし、私にも考えがあるから問題ない」

「そこまでお考えならば私には異論はありません。で、何か策はおありですか?」

「とりあえず、市場開催の情報を掴んで、誰かを客として入り込ませる。そいつに人身売買の事実を確認させて、一気に急襲する」


 ミュラーの案を聞いたサミュエルは渋い顔だ。


「基本的にはそれでいいでしょうが、誰を潜入させるおつもりですか?」

「私自ら潜入しようと思ったが、フェイに止められた」


 それまで無言だったフェイが口を開く。


「当然です。慎重な奴隷商人が得体の知れない客を招く筈はありません。主様の計画は甘過ぎます」


 フェイの意見にサミュエルも頷いた。


「まあそうですね。ミュラー様は顔が知れている可能性もありますし、かといって元々の顧客をこちら側に引き入れるには時間が足りませんし、リスクも高い。分かりました。潜入者は私の方で何とかしましょう」

「心当たりがあるのか?」

「はい。私の旧知の広域商人に頼みます。金さえ払えば信頼のおける人物です。奴ならば、奴隷商人も信用する筈です」

「サミュエルの知人ということは、悪党だな?」


 ミュラーの言葉にサミュエルはムッとした表情を浮かべる。


「そうですね。彼の名はランバルト。ランバルト商会の代表で、帝国内のみならず幅広い商いをしています。人身や禁制品は扱いませんが、買える物は誰からでも買いますし、売れる物は誰にでも売ります。法の抜け穴を掻い潜り、人の足元を見て商売をする悪徳商人です」


 ミュラーはニヤリと笑う。


「それは面白い」


 結局、サミュエルの提案を受け入れて奴隷市場摘発作戦が練られることになった。


 摘発に当たっては作戦を察知されるのを防ぐため、衛士隊の動員は最小限の1個小隊18名に留め、不足分を領兵隊の中で編成が終わった1個小隊17名に加え、編成途中の弓兵分隊5名で補う。

 総数40名を投入するが、前例から予想される奴隷市場の参加人員は30名前後、被害者の数は30から40名程度だ。

 参加者を捕縛し、被害者を保護することを考えれば、戦力が足りていないが、これ以上の投入は出来ない。

 それ故に、綿密な作戦と、相手に反撃を許さないだけの速攻が求められるのだ。


 数日後、サミュエルの情報収集により奴隷市場が開かれる時と場所が判明した。

 場所はリュエルミラの北西にある平原で、北の山脈にも西の深淵の森にも容易に逃げ込め、東の帝都側から来てもリュエルミラの領都や集落を通過せずに来ることができる場所だ。


「ランバルト商会の協力も取り付けました。作戦が漏れる可能性があるのでミュラー様とランバルト商会は接触しないようにします。当日は私も摘発に参加してランバルト商会との連絡役を務めます。怪しまれないように摘発の際にはランバルト商会も捕縛してもらいますが、作戦で発生すると見込まれる損害は補償する必要がありますよ」

「それは構わん。しかし、別に問題があるな」


 ミュラーは地図を見ながら考える。


「周囲の見通しが良すぎることですね?」

「ああ、これでは部隊を展開する前に感付かれるな・・・。本隊の展開は多少は遅れてもいいが、2個分隊、10名程度は即時展開をしたいところだ」


 今回の摘発作戦は内部協力者の合図で一気に包囲する必要があるが、それをするには開催予定地の見通しが良すぎるのだ。

 ミュラーの考えにサミュエルも頷く。


「そうですね、第1陣は騎馬での突入したいところです。それに、摘発開始時にはミュラー様の通告が必要ですから、ミュラー様にも先陣を切ってもらう必要がありますが、ミュラー様は馬には?」

「軍事教練で何度か乗ったことはあるが、私の大隊は歩兵の剣士大隊だったからな。あまり得意ではない。元々の部下だったオーウェン達も同じだな。私より多少はマシという程度だ」

「・・・・フェイ様は?」

「私も難しいです。乗馬は出来ますが、馬の方が私を怖がってしまいますので、余程落ち着いた馬でないと・・・」


 ミュラーとフェイの答えにサミュエルは頭を抱えた。


「・・・分かりました。その辺も何とか考えましょう」


 こうして奴隷市場摘発の準備は着々と進められていった。

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