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パットからの知らせ

 前領主がリュエルミラを統治していた時に領主の館に忍び込んで地下牢に捕まっていたところを新領主のミュラーに放免され、それ以来、領都内の情報をミュラーに伝えては食事や小遣い稼ぎをしているパットは今やミュラーの大切な情報源だ。

 普段のパットは領都内の異変について、事の大小は判断せず、些細なことでもミュラーに報告してその判断を委ねている。

 その大半は大事に至らない他愛のない情報であるものの、中には重要な情報も少なくなく、普段は裏路地にいる筈の猫が居なくなったとの情報を持ってきて、念のために調査したところ、地下水道にスライムが大量発生していたなんてこともあり、決して軽視できない。


 園遊会から数日後、パットがミュラーの下を訪れてきたのだがいつもと雰囲気が違う。


「おじさん、奴隷商人が来るよ」


 食事時ではなかったため、軽いお茶菓子を頬張りながらも、いつになく真剣な表情のパット。

 聞けば、近々領内で奴隷市場が開かれる可能性があるということだ。


「帝国法では奴隷売買は重罪だったな?」

「はい、業として人身売買をした者は財産没収の上、死罪。客として人身を買い入れた者は同じく財産没収の上、重労働の刑と定められています」


 パットと共にお茶を飲みながらミュラーがフェイに確認する。


「それでも奴隷商人が蔓延り、客がいるということは、リスクを背負っても旨みがあるということか」

「はい。商品としての人間や亜人は高値で取引されます。しかも、リスクが大きいと言っても、取り締まる側は市場の開催を現行犯で押さえる必要がありますから、摘発の難しさもあります」

「市場開催の前に奴隷商人を捕まえるのは駄目か?」

「商品とされる被害者には高度な服従の魔法が施されていて、移動中も檻に入れられたり、拘束されたりはしていません。移動中の奴隷商人は旅芸人等に偽装しており、取り締まろうにも、商品である被害者自身がそれを認めることが出来ません。よって、市場において売買の事実と証拠を押さえる必要があります。現場を逃すと奴隷商人は他国に逃れてしまい、売買された被害者は表向きは買った者の使用人となります。施された魔法により主人に絶対服従で逆らうことのできない、現実的には奴隷ですが、その証明は困難になります。しかも、この魔法は時が経つにつれて精神と同化して消えてしまうという特性があります」


 つまり、奴隷として売られた被害者は魔法による服従を強いられながら精神を支配され、魔法が消えても支配から逃れることが出来なくなってしまうということだ。

 奴隷を檻に閉じ込めて、鎖で繋いでいると思っていたミュラーだが、実態は遥かに巧妙化されているのである。


「しかし、何故パットは奴隷市場が開かれることが分かったんだ?摘発を逃れるために巧妙化している連中がパットみたいな子供に気付かれるのは変ではないか?」


 思い出したかのように首を傾げるミュラーにパットは不満げな表情を浮かべた。


「子供扱いしないでよね!それにね、都市の中を毎日歩き回っていれば、ちょっとした変化に気付くもんだよ」


 子供扱いされたことを抗議するパットだが、ケーキのクリームを頬に付けていては説得力が無い。

 それでも、パットに言わせると奴隷商人は市場を開く前には目的地の治安情勢を探るために手下を潜入させて摘発を逃れることが可能かどうかを確認するということだ。

 特にここ暫くのリュエルミラは前領主の腐りきった治政から奴隷商人が好き勝手をしていたらしい。

 それどころか、奴隷商人の手下が前領主に接触していた事実もあるという。


「リュエルミラに住む人ならば知っている人も多いよ。ただ皆は見て見ぬふりをしていたけどね。下手に口に出せば何をされるか分かったもんじゃない。僕だって前の領主が生きていたら、彼奴のおもちゃにされた挙げ句、奴隷商人に売り飛ばされるところだったんだ。僕だけじゃない、前の領主に売られた人は他にもいた筈だよ」


 パットの言葉はかつてのリュエルミラの惨状を表しており、フェイもお茶を飲みながら頷く。

 

「リュエルミラ地方は帝国の西端に位置しています。北は険しい山岳地帯、西には深淵の森が広がっていますが、彼等にしてみれば、それらですら他国へ逃れる逃走経路なのでしょう。しかも、前領主が裏で繋がっていたとすれば尚更です」


 フェイの言葉にミュラーは腕組みして考え込む。


「リュエルミラは奴等にとって都合の良い場所だったということか」

「そうですね。加えるならば、客にしても都合が良いのだと思います。おそらくは国内の富裕層だけでなく、隣国からの客も望める筈です。だからこそ、領主が変わったとしても、この地で商売が出来るのかを探っているのでしょう」


 ミュラーは考えた。

 現状としてリュエルミラ領内はまだ安定していない。

 だからこそ奴隷商人に舐められて奴隷市場が開かれようとしているのだろう。

 だが、見方を変えれば、これは好機だ。

 奴隷商人がリュエルミラを舐めているならば、それを逆手に取って一斉に摘発して、奴隷商人も客も一網打尽にすれば、新たなリュエルミラの姿勢もアピール出来るし、領内安定の一助にもなるだろう。


「サミュエルを呼んでくれ」


 ミュラーは奴隷市場の一斉摘発を決断した。

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