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社交界の洗礼2

 スクローブ侯爵達に絡まれるミュラー。

 そんな様子を離れた所からエドマンドとクラレンスが見物していた。


「陛下、ミュラー辺境伯がスクローブ侯爵等に絡まれていますが、放っておくのですか?」

「絡まれている?確かにミュラーは鬱陶しいと思っているだろうが、助けが必要な程困ってはおるまいよ」

「しかし、ミュラー殿も相手にしなければいいのに、ちょっと大人気ないですね」

「それはミュラーも分かっているだろう。それでも奴は軍人だ。退き際は弁えているが、舐められたままというわけにもいかんのだろう。でないと、今後会う度に絡まれるからな。それに、あの様子を見て、遠巻きに見ている他の貴族共はミュラーを見極めるだろう。知恵の回る者ならば、ミュラーを敵にしようとは思わない筈だ」


 エドマンドとクラレンスは園遊会の最後の余興程度にしか見ていないようだ。


 ミュラーもそろそろ幕引きをしようかと考えた矢先にスクローブ侯爵に同行していた若者が口を挟んできた。


「しかし、ろくにエスコートも用意できない貧乏者ですが、連れている従者はなかなかのものですな。見てくれの良いハイエルフはもちろん、そこのメイドも容姿に華やかさは無いが、体つきは悪くない」


 嫌らしい目でフェイとマデリアを見る軽薄そうな若者はスクローブ侯爵の嫡男のフライス・スクローブだ。

 たしか、スクローブ侯爵家の連隊を率いている連隊長の筈だが、前線では一度も見たことはない。


「どういう意味ですか?」

 

 ミュラーの声のトーンが低くなるが、フライスは気付かない。


「そこのハイエルフは魔術師を真似たような出で立ちですが、違いますね?見たところ、魔力行使の媒体となる魔石を持っていない。まともな魔術師とは思えません。そもそも、魔法を使えないのではありませんか?」


 なかなかの観察力だが、判断の基準が自分の知る浅い知識だけというのが軽率だ。

 確かにフェイは魔法を使えない(と自分は言っている)し、大半の魔術師は魔法を行使する際に媒体となる魔石を杖や指輪に嵌めているのも事実だが、それが絶対に必要なものではない。

 しかし、フライスの言葉を聞いたスクローブ侯爵達は声を上げて笑い出した。


「此奴め、エスコートどころかまともな従者もいないものだから見てくれだけの女を連れていたのか?」

「浅はかな見栄っ張りも甚だしいな。これだから礼儀も気品も無い、にわか貴族は駄目なのだ。栄えある帝国貴族として恥ずかしい限りだ」

「同じ貴族と思われたくないものですな」


 口々にミュラーを馬鹿にし始める取り巻き達だが、ミュラーは表情を変えない。

 自分が馬鹿にされる分にはどうでもいいことなのだ。

 しかし、調子に乗ったフライスの次の一言がその場の空気を一変させた。


「どこから仕入れてきたのですかな?何処ぞの娼婦か何かですか?端女としては上物ですね、貧乏者としてはかなり無理をしたのではありませんか?」


 フェイもマデリアも元から感情の起伏が皆無であるし、ミュラーの従者として弁えているのですまし顔だ。

 しかし、ミュラーは違った。

 2人を貶められたミュラーの目が細く据わる。


「申し訳ないが、私の従者を貶めるような発言は控えてもらおう・・・」 


 ミュラーの雰囲気が変わったことに気付いたスクローブ侯爵や取り巻きの貴族は息を詰まらせるが、その取り巻きを見ながら煽ることに気を取られていたフライスは不幸にも場の空気の変化に気付くのが遅れた。


「ハハッ、端女をはべらせて満足しているような・・・ヒッ!」


 嘲笑いながら振り返ったフライスはミュラーの目をまともに見てしまう。

 数多の戦場を駆け抜け、生死の狭間を潜り抜け、数え切れない程の命を屠ってきた本物の殺戮者の目。

 それだけで人を射殺すことが出来るのではないかと錯覚するような眼力だ。

 見られてもいない取り巻きの貴族達ですら震え上がっているその鋭い目をフライスはまともに見てしまった。


「発言を取り消してもらおうか。貴様のような屑に私の従者は悪く言われる筋合いはないぞ」


 ミュラーの言葉を聞いて一瞬だった。

 ミュラーは何もしていない。

 それでもフライスは腰を抜かし、あまつさえ失禁してしまう。


「あわっ・・・あ・・」


 発言を取り消すもなにも、恐怖のあまり言葉を発することも出来ないフライス。

 大勢の前で腰を抜かして失禁するという大恥をかかされたフライスのみならず、父親であるスクローブ侯爵ですら言葉を失っている。


 ミュラーは腰を抜かしているフライスを見下ろした。


「偉そうに囀るのは構わんが、時と場所、そして相手を見誤らず、何よりも身の程を弁えることだ」


 言い放つとミュラーはフェイとマデリアを従えて歩き始める。

 スクローブ侯爵の横を通り、その先にいた取り巻きの貴族達は無意識にミュラーに道を開けた。


 こうしてミュラーの社交界デビューは波乱に満ちたものとなったが、ミュラーの気苦労はまだ終わりではない。


「主様、あの程度の小物相手に大人気がなさすぎます」

「私のことなどでミュラー様が腹を立てるなど、無駄がすぎます」


 リュエルミラへの帰りの馬車の中でフェイとマデリアのお説教が待っていた。

 2人にお説教されて何も言えないミュラー。

 事情を知らないクランはただオロオロするばかりだった。

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